第15話

 「西園寺君、おはようございます」


「おはよう、源さん」


「今日のお昼もご一緒できますか?」


「朝一で聞いてくる事がそれなの?」


「私にとっては1番大切な事ですから。

勉強なんておまけに過ぎません」


穏やかで優しい笑顔を浮かべながら、聴く人によっては眉をしかめるような事を言う。


「・・今日も予定は空いてるけど」


ゲーム世界でたった1人で魔物を狩り続け、殺伐とした時間を長く過ごすようになると、彼女の創り出す癒しの雰囲気をつい求めてしまう。


「嬉しいです。

早速個室の予約を入れますね。

メニューはいつも通りで良いですか?」


「うん」


「フフッ、早くお昼にならないかな」


いや、まだ朝のホームルーム前なんですけど。



 放課後、部活動や帰宅など、各々おのおのが其々の行動を開始する中で、源美麗は独り静かに校門に向かう。


修はいつもさっさと帰ってしまうので、彼女はそれを見送った後、ゆっくりと校門まで歩く。


廊下でれ違う教師陣や、校門を見張る守衛達が、美麗を見かけるとこっそりと目礼していく。


校門を出ると直ぐ、塀に横付けされた黒塗りの高級車の脇に立っていた女性が、そっとそのドアを開ける。


彼女の服装は、サングラスこそしていないが、テレビやアニメに出て来る、黒服のボディーガードのそれと同じ。


見る人が見れば、懐に拳銃を隠しているのが分るだろう。


彼女は、その携帯を許された人物なのだ。


美麗は当たり前のようにその車に乗り込んだ。



 昼食時、源さんが和牛ハンバーグステーキを食べていたので、俺も何だかハンバーグが食べたくなって、夕食用に肉の分厚いハンバーガーを4つ買って帰る。


珈琲を淹れ、無心でそれを1つ頬張った後、パソコンの前に座る。


昨日、ゲーム世界からこちらに戻って来て、実に4日振りくらいに眠ったはずなのに、朝にはすっきりと目が覚めた。


勉強や入浴を済ませた後だから、正味5時間くらいしか寝ていない。


ゲームの中でなら、不眠、排泄行為なしで過ごせる。


この仮定が、どうやら現実味を帯びてきた。


「魔法、早く使えるようにならないかな」


ログインボタンをクリックしながら、そんな事を呟く。


ゲーム内に入って時計を確認すると、昨日ログアウトした時間と全く同じだった。


俺がゲーム世界で過ごす間はリアルの時間が止まっているように、現実世界で過ごしている際は、こちらの時間が止まっている。


まるで、セーブやロード機能が働いているみたいに。


まだ夜間なので、朝まで森で訓練することにする。


閉門間近の裏門を潜り、ダッシュで森まで移動する。


『マッピング』を起動し、まだ探索していない場所を目指してどんどん進んだ。


1度探索した場所には、魔物はほとんど居ないからだ。


質の良い薬草があった時はそれを採取し、ランクNとMの魔物は向こうから襲ってこない限り無視。


5時間が経過した頃、やっとLやKの魔物に遭遇し出す。


グレートボアも2体狩れて、そういえばまだ前回のを売っていないと思い出した。


10時間が経過し、水辺が現れる。


沼の周囲に赤い点が数個あり、上半身が裸の女性が居たと思ったら、その下半身は蛇だった。


『名称:ラミア

ランク:K

素材価値:なし』


上半身だけだが、成熟した女性の裸を見たのはこれが初めてだったので、何となく気まずい。


素材価値もないなら見逃そう。


そう思っていたら、相手に見つかってしまった。


凄い速度でこちらに迫って来る。


その口が人にあるまじき大きさに開かれるのを目にして、迷いが消える。


盾を出して、相手の鋭い爪を受けながら、的確に首を刎ねていく。


5体を倒し終え、盾を終う時、ついでにステータス画面を覗いてみたら、盾スキルが付いていた。


折角なので沼の周囲を隈無くまなく歩き回ると、所々に人骨と一緒にお金が落ちている。


それらを全部拾い集めると、1万ゴールド以上になった。


他には、短剣や長剣が数本と、身分証が数枚。


それで思い出した。


あ、やば。


ギルドにも顔を出さないと。


未探索の場所を通って遠回りしながら帰れば、まだ十分明るい時間に戻れる。


森での訓練は、つい時間を忘れて没頭してしまうから気を付けないといけない。


その後、結局遠回りをし過ぎて、町に着いたのは、エレナさんの授業がある日の昼間だった。

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