第14話

 エレナさんの授業は、30分くらいが理論で、その後の90分くらいが実践だった。


体内にある魔力を感じ取ることから始めて、最初は苦労したが、彼女が俺と両手を繋いで魔力を循環させてくれたお陰で、ぼんやりとその存在が感じられるようになってきた。


お互いに目を閉じて循環させていたのだが、己の魔力と一緒に俺の魔力まで体内に取り入れていたエレナさんは、訓練を終えた時、少し赤い顔をしていた。


「大丈夫ですか?」


「ええ、気にしないで」


何だか吐息が艶っぽい。


「この訓練はね、本来は夫婦や恋人など、特に親しい関係の人とするものなの。

他人の、特に異性の魔力というのは、体内を流れる時にある種の快楽をもたらすことがあるのよ。

必ずという訳ではないのだけれど、魔力の強い相手から弱い相手へと流れる時は、その確率が高いの」


「済みません、俺の魔力が低いばかりに・・」


「違うわ。

その逆よ。

修君の魔力が高過ぎるの」


「え?

でも俺、何の魔法も使えないし・・」


「それはまだ使い方を知らないからよ。

修君にはかなりの素質があるわ。

訓練を積めば、きっと複数の魔法が使えるようになるはず」


「そう言っていただけると、希望が湧いてきます」


「魔力の高い修君のお陰で、私にとっても良い訓練になることが分ったしね。

自分より高い相手と循環を繰り返すことで、ほんの少しずつだけど、私の魔力も増えていくから。

お互いに頑張りましょう」


「はい。

・・2つ質問しても良いですか?」


「何かしら?」


「騎士団に入るには、剣の腕は必須ではないのでしょうか?」


「・・ああ、成程ね。

この町には3つの騎士団があって、其々の団には特徴があるの。

第1騎士団には、剣と魔法の両方に優れた人が所属する。

つまり精鋭部隊ね。

第2騎士団は剣やその他の武器が得意な人が所属し、第3騎士団は魔法に優れた人のみで構成されている。

魔法が使える人は100人に1人と言われているから、第1騎士団員の数が最も少なくて、第2騎士団員は他の倍以上いるの」


「この町には学校はないのでしょうか?」


ほとんど1日かけて散策した時、それらしい建物は見当たらなかった。


「学校なんて、国全体でも王都にしかないわ。

貴族や裕福な家庭の教育は、個人的な家庭教師が担っている。

それが無理な家庭は、読み書きと計算用の本を買って、自分達で勉強するしかないの」


散策途中に立ち寄った役所では、この町の人口は約60万人だと教えられた。


国で3番目に大きな町だから、中世のような暮らしだが、それなりの人口がいる。


なのに、学校が1つもないとは・・。


でも、よくよく考えてみれば、それが当たり前なのかもしれない。


1日の大半を学ぶだけで過ごせるなんて、世界が平和で、かつ豊かでなければ無理だろう。


町から1歩外に出れば魔物が居て、町の治安だって、このゼルフィード以外はそんなに良いとは思えない。


働かなくては食べていけない人がほとんどで、奴隷制が存続しないのであれば、裕福な者でもやらねばならない事は多い。


現実の日本での暮らしが、どれほど恵まれているのかを思い知らされた。


『次は3日後ね』、そう伝えられ、エレナさんの家を後にする。


勿論、鏡と時計を扱っている店の場所も尋ねておいた。


リビングの壁には時計が掛かっていて、今までは必要なかったが、今後人と約束する場合には必須になる。


俺が時計を持っていないことが分ると、エレナさんが予備の物を貸してくれた。


今回はここでログアウトすることにして、人気ひとけのない路地に入り、現実世界へと戻った。

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