第11話

 「ん?

こんな場所に集落?」


森の中にぽっかりと空いた広場に、十数個の粗末な建物が密集している。


マッピング画面を確認すると、赤い点がかなり沢山あった。


念のため、【アイテムボックス】から盾と兜を取り出して装備する。


「こういう時、遠距離攻撃の手段があると便利なんだけど・・」


なるべく静かに、囲まれないような場所を選びつつ、集落に近づいて行く。


最初の建物では、2体のハイゴブリン同士が子作りに励んでいた。


「油断し過ぎ!」


長剣で1度に2体を突き刺す。


その悲鳴を聞いて、隣の建物から2体のハイゴブリンが出て来た。


かさず1体の首を刎ね、もう1体の攻撃は盾で受け止めた後、返す刃で相手の首を刎ねる。


その頃には、あちこちの建物から20体以上のハイゴブリンが集まって来ていた。


「少しやばいか」


広い場所を避け、広場の入り口、両側に大木が立つ場所まで急いで後退する。


追い掛けて来た相手を、振り向きざまに突き刺す。


蹴りでその相手の死体を吹っ飛ばし、同時に2体までを相手に応戦する。


何体かが遠回りして裏手に回って来たので、今度は正面を突破して、また有利な地形まで走る。


20分が経過した頃、やっと全ての敵を倒し切った。


こちらの被害は軽微。


何度か敵の剣がかすったりしたが、防具のお陰で出血まではしていない。


呼吸を整えると、戦利品の回収に入る。


1体1体の死体を足で転がし、注意深く所持品を漁るが、武器以外は何も持っていなかった。


「こいつらの武器、どうするかな」


中古だが、鉄の武器なら安くても売れるんじゃないか。


元は誰かの持ち物だった可能性が高いし、とりあえず回収しておくか。


石の物は避け、鉄製の武器だけを【アイテムボックス】に入れていく。


その後、粗末な建物の中を調べると、結構な額のお金が残されていた。


全部で金貨8枚と準金貨数十枚、銀貨や準銀貨、銅貨が数百枚。


その他に、誰かの身分証や指輪などのアクセサリーが十数点。


ハイゴブリン達に殺された人々の物だろう。


それらも回収して、ギルドに届けてあげることにした。


「・・一旦町に戻るか」


ログインしてから既に50時間以上が経過し、これから戻るにしても、更に20時間以上はかかる。


り性なので、何事も始めると時間を忘れて熱中してしまうのが俺の悪い癖だ。


帰りも今まで通ったルートとはまた別の道を選択し、薬草を探しながら町を目指す。


ゼルフィードに着いた時には、依頼を受けてから3日以上が経っていた。



 「こんにちは。

依頼を達成してきました」


前回と同じ女性の窓口に並び、順番が回ってきた俺を見たその受付嬢は、一瞬はっとして、その後直ぐに微笑んだ。


「良かった。

ご無事だったんですね」


「え?

・・はい、無事に帰って参りました」


「3日以上も報告がありませんでしたので、もしかしたらと心配しておりました」


「薬草採取って、そんなに直ぐ達成できるものですか?

依頼書には50本以上と書かれてありましたが・・」


「この依頼書は常時掲載の代物しろもので、皆さん、大体1日も掛からずに達成しております。

報酬が安いので、これを単独で受ける場合は、それ以上の時間を掛けると割に合わないみたいです」


報酬は150ゴールドだから、確かに安い。


けれど、1日で往復できるような場所にある薬草は、質の良い物は少なかったはず。


「あの、50本以上ということですが、それ以上は全て同じ報酬なのでしょうか?」


「ああ、初めてこれを受ける方には分かり辛かったですよね。

50本以上というのは、ポーション作成に使用可能な薬草の数です。

皆さんが持参された中には、質が悪く、使用に適さない物も数多く含まれています。

ですから、達成には、使用可能な物が50本以上必要ということです」


かりに、100本持参して、それが全て高品質だった場合はどうなりますか?」


「その場合は、依頼2回分の評価と報酬が得られます」


「良かった。

では今回、とりあえず300本の薬草を提出しておきます。

宜しくお願いします」


「わあ、随分と頑張ったのですね。

こちらは一旦お預かりして、査定後に報酬をお渡しします。

明日には結果が出ておりますので、この用紙を持参の上、もう1度ここにいらしてください」


本数を数えた彼女は、大きな籠に丁寧にそれを終い、預かり証を作成して渡してくれる。


「お尋ねしたい事があるのですが、今宜しいでしょうか?」


彼女が裏方さんに薬草の入った籠を渡すのを待ってから、そう切り出す。


「ええ、勿論」


「探索で入手した中古の武器や防具は、何処かで売ることが可能ですか?」


「それなら武器屋や防具屋の他、ここでも買い取って貰えますよ。

専用の買い取りカウンターが、奥の方にありますので」


「そしてもう1つ。

森で見つけた、亡くなったと思われる方々の遺品を、ここで預かっていただけますか?」


「物は何ですか?」


「身分証とアクセサリーのたぐいです」


「お預かり致します。

当ギルドでは、冒険者の方々が各地で拾得した遺品と思われる品々を、積極的に受け入れております。

身分証は、その最たる物の1つです」


「では、こちらをお願いします」


カウンター上にハイゴブリンの集落で得た品々を載せると、受付嬢の顔色が変わった。

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