第9話
「随分と広い町だな。
町というより市と呼んだ方がしっくりくる」
かれこれ1時間以上歩いているが、一向に門が見えない。
まだ昼間でどの店も開いているし、家々にも活動の痕跡が残っている。
物珍しい風景につい歩く速度が落ちて、まだ裏門までは相当ある。
食事処で聴いた話の内容から、自分が潜った門はオルトナ大森林へと続く裏門であると分ったので、薬草採取のためにそちらへ向かっていたのだが、何だか気が変わってきた。
もう今日はこの町を見て回るだけで良いや。
そう思い、町全体をぐるっと回ることにする。
『マッピング』で徐々に埋まっていく地図に嬉しくなりながら、歩くこと約22時間。
途中途中でお店や役所に入り、様々な事を尋ねながら、夕方以降は畑や果樹園、養豚や酪農をしている場所まで見学した。
この町の地図が大体完成し、空間にそれを表示させて眺める。
領主の城を中心に町が構成され、貴族屋敷が城の周囲に存在し、更にその周囲を兵舎や職人街、市場やギルドが囲んでいる。
一般の人が住む家はその外側にあって、酒場やお店がそこに点在する造り。
ゼナ山脈側の城壁付近には、広い畑や果樹園、養豚場や養鶏場、酪農のための小さな牧場がある。
この世界にも、豚や鶏、牛が存在した。
ラノベを読んでいると、倒した魔物を食べている表現が多々あり、肉がそれだけしかないと嫌だな~と感じていたので、これは素直に嬉しかった。
休憩を挟んだとはいえ、さすがに少し歩き疲れ、表示を消して、ぼんやりと丸1日が経過した街を眺めていると、誰かに声をかけられた。
「何か困りごとですか?」
「え?」
「大分疲れているように見えますが、大丈夫ですか?」
目の焦点を、声のする方に合わせる。
立派な馬車の窓から、1人の女性がこちらを見ている。
「マリア様、あのような者にお声をかけずとも・・」
顔は少ししか見えないが、どうやら従者らしい女性がそう口にする。
「彼には何処か気品があります。
貴族のご子息なのでは?」
「・・見覚えがございません。
それにあの恰好は冒険者のものでしょう。
貴族ならもっと上質の装備を身に付けております」
「でも・・」
「お気を遣わせて済みません。
少し歩き疲れたので、休んでいただけなのです」
まだ何か言いたそうだったので、面倒事にならない内にこちらから謝っておく。
「そうですか。
それなら良いのですが・・」
「お手間を取らせて申し訳ありませんでした」
丁寧に頭を下げる。
「・・お名前をお聴きしても?」
意外なことを言われる。
「西園寺修と申します」
「とても素敵なお名前ですね。
覚えておきます」
それで満足したようで、馬車が静かに走り出す。
その後ろに控えていた騎士2人が、馬上から俺をしげしげと眺めていった。
「マリア様、公式の場以外で、平民に気安くお声をかけるのはお控えください。
もし何かあったらどうなさるおつもりです。
カイウン様もご心配なさりますよ」
馬車が再び動き出すと、従者であるリアナが、主人に苦言を
「大丈夫よ。
ちゃんと人を見る目はあるつもり。
彼は善人だわ」
「ですが・・」
「それより見た、彼の顔?
とても凛々しくて素敵だわ。
黒髪に黒目で、瞳がとても澄んでいる。
リアナ、あなたのお相手にどうかしら?」
「なっ・・・お戯れが過ぎます」
「あなたももう22よ?
そろそろ身を固めても良いんじゃないかしら」
「マリア様をお護りする私に、そんな暇はございません」
「護衛なら、もう1人別に雇えば良いじゃない。
1人だけだと、あなたが休めないでしょ」
「マリア様が外出をお控えくだされば、十分に休めます」
「もう、頑固なんだから」
苦笑を浮かべながら、マリアは思う。
『何と無く、彼にはまた会う気がするのよね』
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