第8話

 登録後、先ずは簡単な薬草採取の依頼を受ける。


Gランク(ギルドランクはSからGまでの8段階)の新米冒険者である俺には、討伐系の依頼はまだ早いと判断した。


ギルドから出て、目に付いた食事処に入ってみる。


まだ明るいから酒を飲んでいる人は少なく、店内は静かで心地良い。


「いらっしゃい。

初めて見る顔だね」


40代くらいの、赤毛の女性が直ぐに対応してくれる。


「遠方からこの町に来たばかりなんです。

食事だけでも大丈夫ですか?」


「勿論。

何か嫌いな物はあるのかい?」


ねば々していたり、臭いのきつい物でなければ特に・・」


「じゃあ最初はうちの定番メニューをお勧めするよ。

肉料理、嫌いじゃないだろ?」


「はい、それでお願いします」


厨房に注文を通した後、席に着いた俺に水を持って来てくれる。


「これは初めてのお客に対するサービスだよ」


あ、そうか。


日本に居ると当たり前のことだけど、外国では水も有料の所が多い。


それはこのゲームでも同じなんだな。


周囲を見回し、接客に問題がないことを確認すると、俺は彼女に話しかける。


「あの、お好きな飲み物をご馳走しますので、宜しかったらこの町の周辺について少し教えていただけませんか?」


「あら、もしかして気を遣わせちゃったかい?

じゃあ折角だから、お茶でもご馳走になろうかね」


再度厨房に行き、お茶と一緒にちょうど出来上がった料理を運んで来ながら、俺の隣のテーブル席に着く彼女。


「それで、町の外について知りたいんだったね?」


「はい」


「料理が冷めちゃうから、食べながら聴いておくれ」


チキンソテーに似た大き目の肉に、4種類の野菜が盛られた料理とパンに手を付けながら、彼女の話に耳を傾ける。


「この町には3か所の門があって、正門から続く道には町や村が多く、その先は王都まで続いている。

正門の反対側の門の先にはオルトナ大森林が広がっていて、ここを抜けるには最低でも2年は必要だと言われている。

実際には何年くらい掛かるのか誰にも分らない。

抜けた者がいないからね。

2年という数字は、かつて王国の大調査団が大森林に入り、探索をした時間でもある。

魔物が強過ぎて逃げ回りながら、人員の9割以上、92人を犠牲にしての調査だったが、陸に地図の作製もできない散々なものだったらしい。

これ以降、王国は大森林への介入を諦めた。

もう1つ、東側の門は、幾つかの村と森林を隔ててロマノ帝国へと繋がっているけど、あの国は、ここリンドル王国とは仲が悪い。

過去に1度、戦争にまで発展したことがあるしね。

私が生まれる前、もう何十年も昔の話だけどさ」


「西側には門がないんですね」


「ああ。

ゼナ山脈があるから造っても無駄なのさ。

あそこは物凄く険しい山々で、一般の人には歩くことさえ無理みたいだから。

でもそのお陰で、この町の水資源はかなり豊かなんだ」


「もう1つだけ質問させてください」


「何だい?」


「この町で生活するには、1か月にどれくらいのお金が必要ですか?」


「う~ん、贅沢さえしなければ、5000ゴールドくらいかねえ。

家さえ持ってれば、4000ゴールド掛からないで暮らせるよ。

あとは年に1度の税金だね。

土地を持つ14歳以上の市民は7000ゴールド、13歳以上の出稼ぎ労働者や移民は5000ゴールド、貴族は爵位や階級によって違うね」


あれ、何か随分と安いな。


「年に1度の徴税だと、その前にこの町を出て行こうとする人が多いのでは?」


「この町で新しく仕事を始める際には、雇用主か役所に対して、身分証と前年度の納税書の2つの呈示が必ず必要になる。

それが無い労働者は、役所に3000ゴールドの供託金を積まないと、ここで働けないんだ。

町での稼ぎは村の何倍にもなるから、あまりそういう不届き者は出ないのさ」


「因みに奴隷は存在するのですか?」


「この町には居ないね。

町に住む条件の1つに、奴隷の不所持がある。

持っている人は、その人達を解放しないとここに住めない。

歴代のご領主様が、奴隷制度に大反対なんだよ」


「でもそうすると、犯罪を犯した人や、税金を払えない人達はどうなるのですか?」


「重犯罪者は死刑、軽犯罪者は強制労働、税金が足りなかった人は、額に応じた軽作業を割り当てられる。

そのほとんどが町内の掃除か、兵舎で出る汚れ物の洗濯だね」


奴隷がいないのは良いな。


あの制度は、ラノベを読んでいてもあまり好きじゃなかった。


「余計な事まで聴いてしまって済みませんでした。

ご馳走様でした。

全部でお幾らですか?」


「50ゴールドだよ。

口に合ったかい?」


「はい、美味しかったです」


銅貨を数えていると、女性が不思議そうに尋ねてくる。


「もしかして、準銀貨を持っていないのかい?」


「準銀貨・・ですか?」


「そうだよ。

銅貨をいちいち50枚も数えて支払うなんて大変だろ?

だから1枚で50枚分の役割がある硬貨が存在する。

他にも準金貨と言って、銀貨50枚分の物があるよ。

・・これがそうさ」


話しながら、服のポケットからその準銀貨を取り出して見せてくれる。


銀貨の中央に丸い穴が開いていた。


「・・知りませんでした。

済みません、銅貨50枚のお支払いではご迷惑でしたか?」


「いやいや、そんな事ないよ。

お金はお金さ」


「では申し訳ありませんが、これで・・」


銅貨50枚をテーブルの上に載せる。


「・・はい、確かに」


数え終えた女性がにっこり笑う。


「色々と教えてくださり有り難うございます。

また来ます」


「ああ、是非おいで」


この町での食事は今後、なるべくあそこで取ろう。


しかし、本当に物価が安いな。

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