第6話
容姿端麗で様々な才能に溢れた才女。
167センチの身長は、184の俺と並んでもそう大差なく、制服を盛り上げ、時々目のやり場に困る胸は、『94のGです』と、尋ねてもいないのに、わざわざご本人が耳打ちして教えてくれた。
ウエストやヒップのラインが素晴らしく、脚はすらりと長いが、黒のストッキングに覆われた引き締まった太股は、体育の授業で凄まじい破壊力を発揮する。
声が奇麗で耳に心地良く、よく手入れされた長めの黒髪は、いつも花の香りがする。
彼女の隣の、この席に着く権利をもし競売にかけたなら、きっと数十万円の値が付くだろう。
いや、金持ちが多いから、100万円を優に超すかもな。
そんな彼女から入学以来毎日挨拶される俺は、週に何回か昼食の席を共にするせいもあり、他の男子から時々殺気の籠った視線を向けられることがある。
だから、他の面ではあまり目立たないように、学校ではかなり大人しく過ごしていた。
「ええと、今日のお昼は一緒にどうですか?」
2日続けて遠慮していたので、朝から都合を聞いてくる。
「・・また女子からお誘いが入るのでは?」
クラスのリーダー格の彼女には、当然他にも沢山の友人がいるが、何故かその中に男子は入っていない。
勿論、会話くらいは普通に交わすのだが、昼食を共にする男子は俺だけだ。
彼女のプライベートは謎に包まれていて、休日に一緒に遊びに行くような人は、女子の中にも居なかった。
「だから、こうして今の内に聴いているのです」
「今日は・・特に予定はないけど」
言い訳に使うネタが尽きて、そう答える。
俺だって彼女と過ごす時間は楽しいのだが、
女子とは数人のグループで食事をするのに、俺と食事をする時は、彼女は必ず2人だけで過ごすのだ。
学食には何と有料の個室が2つあって、予約制だが空いていれば当日でも使用できる。
防音で鍵が掛かるが、ドアにはちゃんと中を覗ける窓があるので、そこで不届きな事をする人はいない。
あまり他人に聞かれたくない話をする、特殊な生徒指導の際などにも使われていた。
「フフッ、じゃあ決まりですね。
予約はこちらで取っておきますから」
嬉しそうにスマホを取り出して、誰かにメールを送っている。
うちの学校は、スマホの校内使用や、頭髪、服装に関する細かな規則は一切存在しない。
そんな事をいちいち決めねば秩序を保てないような、レベルの低い生徒は存在しないからだ。
ほとんどが生徒個人の自主性に委ねられる代わりに、重大な違反行為を犯せば直ぐに退学になる。
生徒自身がこの学校に在籍する価値を十分に理解しているから、規則などなくても平穏そのものである。
「西園寺君は、かつ丼と親子丼で良いんですよね?」
「うん」
「毎回そればかりで、よく飽きませんね」
個室使用者に限って、事前にメニューの注文までできる。
生徒の個室使用料が5000円だから、それくらいの便宜は図ってくれるのだ。
俺が源さんのお誘いを受け辛いのは、その使用料を毎回彼女が払っているせいもある。
『割り勘で』とお願いしても、彼女は頑として聞き入れてはくれない。
メニューの代金まで支払おうとしたが、そこだけは譲れないので、『代金を受け取ってくれないのなら、もう君とは一緒に食べない』と告げると、渋々了承してくれた。
以前に1度、どうして俺にそこまでしてくれるのかを源さんに尋ねたことがある。
だがその時、彼女は名状しがたい顔をして、『その内教えてあげます』としか答えなかった。
何と無く触れてはいけない事のような気がして、それ以来、彼女の俺に対する行為に理由を尋ねることをしなくなった。
「さて、今日は楽しみが増えましたから、お勉強頑張ります」
まるで昼食を目当てに学校に来ているようなことを言う彼女。
間も無くホームルームが始まり、いつもの時間が動き始めた。
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