白百合ゆれて

梅林 冬実

白百合ゆれて

ブランコと水飲み場の隙間が

私のスペースだった

拾った小枝でお絵描きしたり

アリの行進を眺めたり


ひとり遊びが好きだったから

友達なんてものは当時からいなかったけれど

それなりに楽しく過ごしたものさ


ブランコ漕いだり滑り台に興じたり

ジャングルジムの一番高いところから

誰に向かうでもなしに雄叫びをあげたり


毎日がお遊戯

毎日が未知の世界への挑戦


花壇には白い百合がたくさん咲いていて

たまにはそんなのを眺めることもあった

ゆりの花びらは筋張っていて

ちょっと触っただけで

黄色いポレンが服について取れなくて

でもとてもきれいな花だから好きだった


花壇の向こうにはベンチがあって

たまにはそこに人がいて

ゆりの花を愛でていると

若い男の人が女の人を慰めていて

花壇の前に陣取る子供には目もくれず

何やら話していて女の人は泣いていて

その様をじっと見つめてしまった


「これ以上傷付けたくない」


男の人が放った言の葉を

小さな耳は確かに捉えた

離れたくない女の人と

これ以上一緒にいられないと判断した男の人と


顔まで思い出せない

もう遥か昔日のこと

ただ 女の人が悲嘆に暮れていたこと

男の人もとても辛そうにしていたことは

まざまざと思い出せる


恋ってまだよく分からないけれど

あの女の人は

あの男の人に恋をしていて

それはあの男の人も同じで

あの女の人に恋をしていて

でも何かしら理由があって

離れなければならなくなって


辛いとか 悲しいとかよく分からない

分かりたく ないかも知れない

だってあの女の人の

どうしようもなく沈痛な気持ちは

まだ幼かった心に

こんなに強く印象を残したんだもの


たくさんの白百合は揺れて

その馥郁とした香りに触れると

今でもあのふたりを思い出す


あの女の人の願いが叶って

あの男の人の傍で

白い百合のブーケを手に

微笑んでいたらいいなぁと思う


今日みたく

咲き誇る白百合を目にした日は

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白百合ゆれて 梅林 冬実 @umemomosakura333

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