もやもや

@fum1y4N

第1話 もやもや

 ーまじでふざけんなよー

勤めている会社に対する不満は日に日に大きくなっていく。


が、そんなことはどうでもいい。どうでもよくないがどうでもいい。

現実的な問題は現実的な対処法があるからそのうちなるようになる。


だが自分の中にあるこの大きなもやもやには対処法がない。

強いて言うなら考え続けることだがそれでも終わりは見えない。

たったの24年間生きただけで見えるようなものなら見えなくていい。

まだ見たくない。

でも見たい。

この渇望にはなんて名前がつくのだろうか。


俺は頭がおかしいのか。

自分でもよくわかってないもやもやの終わりが見たいなんて。

生きていれば見えてくるのか。生きていても努力しなければ見えてこないのか。

嗚呼、なんて憂鬱で楽しいひとときなんだろう。


このもやもやを強引に明文化するなら「生きるとは何か」だ。

うーん。何か違う。

違わないけど違う。

ひとまず「生きるとは何か」について考えてみよう。

あー、わからん。

生きる上で大事な事をあげていけば見えてくるか?

食事、睡眠、人間関係、お金、社会的地位

どれも自分が疎かにしているものじゃないか。じゃあ違うな。

それならなにか。もっと内面的な何かか。

好奇心、探求心、信念、理想

なんかちょっと近づいた気がする。


こんなありがちな言葉で表されていいものなのか? 俺の人生。

俺の人生って言ったってまだ24年とちょっとしかたってないけど。

この短い人生の中で見てきたものだけで考えるのは浅はかというものだろう。

でもそれしか判断材料がないんだ。


この強迫観念はなんなのか。

ただ自分で考えているだけなのに。

誰も答えなんて求めていないのに答えを出さなきゃいけない強迫観念が俺の中にある。


俺の中に俺がもう一人いる。多重人格的な奴ではない。

現実世界と思考世界を行き来する「俺」が思考世界だけを生きる「オレ」に対し意見を言う。


オレは俺と記憶を共有しているし、似たような性格をしてるはずだ。なのになぜか俺とオレは分かり合えない。


俺は必死に考え答えを出そうとしているのに、オレはただ聞くだけ。たまに口を開いたかと思えば一丁前に反論してくる。

オレは意見を言わないくせに反論だけしてくるクソ野郎だ。


 「生きるっていうのは生きるとは何かを探究することじゃないか?」


 「それはないだろ。なんで生きるとは何かって言う問いの中に生きるとは何かが入ってんだよ」


うるせえよ。浅い答えだろうと俺なりに考えたんだよ。頭ごなしに否定せずちょっとぐらい考えてくれ。


多分オレは俺自身が持つ自分の答えへの不信感を言語化して伝えてくれているのだろう。

でも否定ばかりされると腹が立つ。

多分俺の考えを聞いて共感してくれる人を現実世界で作ればオレに否定されることはないだろう。

でもこんな考え他人に話せば確実にやべーやつ認定だ。


思考世界に入り浸る俺に対しオレは「ゲームでもしてろ」という。

趣味は俺を現実世界に引き戻してくれる。


ベッドから起き上がりパソコンの電源をつける。

毎日やっているFPSを起動しウォーミングアップする。

が、全然集中できない。

まだ思考世界から抜け出せてないな。

思考世界から俺が体に指示を出しているだけで、現実世界には戻ってきていない。

体は俺に戻ってきて欲しいと言っているし、オレも早く帰って欲しそうだ。


 「ご飯できたで」

おばあちゃんの声でやっと戻って来れた。

台所に行くといつも通り品数豊富な晩ごはんができていた。

俺が現実世界で生きていられるのは家族のおかげだ。俺は祖父母と両親がいないと現実世界を生きていけないダメ人間だ。


 「いただきます」

ご飯を食べ始めると、いつの間にかオレに話しかけていた。

 

 「お前はいいよな。欲しいものをなんでもすぐ手に入れられる。お前ばっかり楽しみやがって。俺にもそっち行かせろ」


 「お前が死んだらオレが死ぬだろ。とりあえず生きてろ」


会話になってないな、俺とオレ。

そっちに行かせろって言ってんのに「死ぬな。生きろ」ってそっちに行くことイコール死なのか?それなら俺は今まで何回死んでるんだ。


 「ごちそうさま」

今日の晩ごはんも美味かった。


さあ、ゲームするぞ!

ゲーム起動したままだったのですぐ机に向かった。


いつの間にか集中していて、オレは姿を消していた。

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