まだやってないの?
「まだやってないの?」
学習帳に放り投げられた鉛筆。
「したくても、できないんだもん。」
「何その言い訳。やりたくないだけなんでしょ」
「そんな事ないって、できないの」
「何ができないの」
「何ができないのかわからないからできないの、だからなんもわかんないの」
「それが言い訳だって言ってるんじゃん。わかんないよ。でも、わかんないことほっといたらいつまでもわからないままになっちゃうんだよ」
「でも、でもさ。わからないことはわからないんだよ、どうやってわかっていけばいいの?」
「やるしかないの」
「やるしか?」
「とにかくやるの。やってやってやって覚えるの。何度も何度も繰り返せばその内分かってくる事があるの」
「そんなことできるの?」
「できるよ」
「嫌にならないの?」
「やになるよ。でも、やるの。それが一歩一歩生きてくってことなんだから。だから、言い訳しないでやるんだよ」
「転がった鉛筆みたいに?」
「なにそれ?」
「ずっところころ転がって止まるまでころころして、止まったらまた転がして、繰り返して疲れちゃうまでやるの?」
「疲れた時には前に進んでるんだから」
「でも、つかれきっちゃったらどうするの?」
「それでもやるの。やらなきゃしあわせになれないよ」
「えんぴつがかわいそうだよ。ころころ、たまによくわからない線を引かされて。」
「ずっとあなたのいってることわからない」
「かわいそうじゃん」
「何が」
「転がったり白い紙に黒線を刻みつけたり、居場所がなかったらまた最初からやり直すの」
「ちょっとずつ進んでるんだって」
「でも、力加減わからなくなって紙が千切れちゃう時もあるじゃん。その時はどうするの?テープでくっつけるの?」
「力加減をコントロールするの。そうすれば破れないんだから」
「それがわからなかったら?」
「それって何?」
「それがわからないの」
「だからそれって何って聞いてるんじゃない」
「それだよ」
「それ?なに?それ?」
「わからないから“それ”になるの」
「それをわかるまでやるの」
「でも、やんになっちゃうよ。上手くできないんだもん」
「上手くなるまでやるの」
「鉛筆で白紙に穴を開けて、苦しんで、苦しんで、もうやめて、やめたい、って水に濡れてぐしゃぐしゃになった学習帳を前にして」
「それでも書き続けるの」
「そんな残酷なことないじゃん」
「世の中は残酷なの。ボロボロになって始めて落ち着くの。もう転がれないなって気がつくの」
「だから、書き続けるの?」
「そう」
「自傷みたいでやだよ」
「傷ついて初めて一人前になるの。だから、真っ暗な闇から答えを探すの」
「答えを、教えてくれればいいのに」
「こたえなんてないの。自分で探すしかないんだよ」
ゴミ箱に握りつぶされてぐしゃぐしゃになった原稿に目を通すと溜息をつきながら、彼女の頭を撫でた。
「そんな無理しなくていいじゃないの?」
「でも、書かなきゃ進まないんだよ。だから筆折る訳にいかないの」
「ぐしゃぐしゃにならないで書く方法だってあるはずだから」
「じゃあやり方教えてよ。そのさ。」
「“その”ね」
幾重に放られた紙屑を一枚一枚ゆっくり皺を伸ばして破れを慈しみながら折戻し一文字一文字に目を通すと。
「今じゃなくていいんじゃない?」
「書かなきゃ」
「書くのさ」
「書かなきゃ」
「この行とかすきだよ」
「そこだけだから。そこしかうまくいってないから」
「でも、俺はこの行が一番すき。ここもいいかも。いいかもって思ってもらえる物をかき集めればきっと形になるよ」
「そうやって現実逃避させようとするだけじゃん!」
「でも、現実逃避の先にある何かだってきっとあるよ」
「何があるっていうの?」
「今じゃなくていい。少しずつ進もう。俺が教えてあげるから」
「スキルないくせに」
「スキルとかじゃないの。人生ってのは。くらげみたいにも生きられるって思って、少しずつ生きるの」
「それじゃ生きてけないよ」
「それは転がってみないとわからない」
「まだ連載の残り山程あるのに、悠長な事言ってられないじゃん」
「俺が掬い取るから。だから、少しずつ言葉を紡ごう。俺が一緒に考えるからさ」
「こどもじゃないんだからひとりでやらないと」
「一人でできることなんて限られてるんだって。教え教わりながら進もうよ」
「まだやってないの、って言われるよ」
「その時はその時だよ。でも、意地悪く形だけ返事しよう」
「そんなんでいいの?」
「そうやって前に進んで行こう。別にカタチは一つじゃないから。二人いるなら二人で考えればいいんだよ」
「まだやってないことだらけでも」
「きっとやれる事が増えてくるから。独りじゃないんだから、生きるのって」
純愛と無垢と拗れ 電話番号案内局 @WhitePages
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