5話 始まる、共同生活

スーパーで初めてのお使いから、無事に藤原さん宅に到着した。




「ただいま帰りました、藤原さん」


アパートの玄関の扉を開け、中に入ると、藤原さんはリビングでソファーに座り小説を読んでいてルナちゃんは藤原さんの隣に座りマンガを読んで寛いでいた。






「帰ったか。どうだった?スーパーまでは迷わなかったか?」


藤原さんに、何か、恩返しがしたく手料理を振舞う為にスーパーでの買い出しを申し出て行ってきたのだ。


「はい、スーパーまでは迷わなかったんですが、中に入るのい手間取ってしまって……」




「おい!スーパーの中に入るのにどうしたら手間取るんだ!?」




「すみません!初めてなもので怖くて……」




本当は、スーパーの扉を開けるのに魔力が必要だと勘違いしてしまったことは言わなかった。魔力が使えないことを悟られない為に。そもそもこの世界では魔力が使えるのが通常のことかもまだ分からないことだし、仮に魔力が使えることが当たり前だとしたら、わたしは、無力で至らない存在でまた要らない子扱いされるのが怖かった。




「そうか、初めて訪れたところだ。怖いと思うのも無理ないか……」




「はい、仰る通りです」




「我も、心当たりがあるぞ、あの道路を走る、鉄の馬車は厄介よのう……」




「そうですよね」




「あんな高速で移動する馬車など、飛竜を使っても出来ない芸当じゃぞ!この地の文明はどうなっているんじゃ?!」




「わかりません……」


元の世界とはかけ離れた文明で、それはまるで……


「それで、そのまま中へ入れないでどうやって買い物をしてきたんんだ?」






「はい、わたしがスーパー中へ入るのを戸惑っていたところ、わたしに優しく声を掛けてきてくれるおば様が現れたのです!その人から、不安を取り除いて貰い中へ入ることが出来たんです。」




「そうか、それは良かったな。」




世間のことがない一つ分からないマシロに手を差し伸べてくれる人がいたことは正直安心した。本当に良かったと思う。




「それから、そのおば様と一緒に夕食の買い物を付き合って貰ったんです」




「そうか、言い人に出会えて良かったな。」


そう嬉しそうに語るマシロは少し興奮しているようだった。初めてのお使いだ。失敗して帰ってくるだろうと想っていた。例え失敗して帰って来たとしても、これはマシロにとっていい経験になるだろうと思っていた。これは嬉しい誤算でマシロにとって俺以外の人間と打ち解ける良い経験になったと思った。







それから少しの雑談をマシロとルナとしていたら日が暮れてきて、マシロは


今夜作る肉じゃがの下ごしらえに取り掛かるのだった。






ジャガイモとニンジンを食べやすい乱切りにして玉ねぎはくし切り。豚肉は、一口大の大きさに切って深底フライパンに軽く油をしいて炒める。野菜も加え、更に炒め合わせ、全体に油がまわったら、砂糖と水を注ぎ入れる。料理の最中、おば様から教えてもらった


『さしすせそ』を忘れずに。あとは何を教えてもらったんでしたっけ?




そうだ!隠し味。『一番の隠し味は食べてくれる人のことを想って愛情を込めて作ることなんだよ』おば様の言葉を思い出し、おいしくなあれ』と藤原さんの為に美味しく作りたいと思い、心を込めて作った。後は、落とし蓋をして弱火で20〜30分煮込んで、ジャガイモとニンジンに箸がスッと通れば完成となる。




「藤原さん、できましたよ」




「おお、できたか。」と読んでいたページに栞を挟むと、小説を閉じ、食卓のダイニングテーブルに座ると、マシロが土鍋を持ってきてくれた。鍋敷の上にそっと置き、蓋を開けると、


肉じゃがの甘じょっぱい匂いが立ち上ってくる。




「いい匂いだな、美味そうだ。」


わたしは器にニクジャガをよそうと藤原さんに手渡す。






「どうぞ、召し上がってください」




「それじゃあ、頂くとするかな」


「召し上がれ」




「うん、美味いな。」と言い食べ進める。




と藤原さんは簡素な感想を述べただけなのに、わたしは、それだけで心を込めて作った甲斐があったと嬉しくなった。




「ご飯が欲しくなる味だな。これ、初めて作ったのか?」




「はい、レシピ通りに作っただけですら誰が作っても同じですよ」




「いや、こんな美味いのは初めて食べた」




「そんな、お世辞でも嬉しいです」






これが、愛情の隠し味なのかな?おば様が言っていたことが少しわかった気がした。


「ご飯ですね?炊いてありますよ。今、よそいますね」




「ああ、頼む」




「はい、どうぞ」と山盛りによそって藤原さんに差し出す。




「おい、そんなに食べられないぞ!」




「すいません。少し落としましょうか?」




「いや、いい。せっかく盛ってくれたんだ、食べるさ」




「ありがとうございます……」








「あと、外に出て思ったのですが、ここってわたしがいた世界とは別の世界なんじゃないのかと……そもそも文明が違い過ぎますし」




「そうだな、マシロからしてみたらここは異世界なんだと思う」




「異世界……ここがわたしがいたとことは別の……」


「そうだ、残念だが、俺にはどうすることも出来ない。」


「そうですか……どうやら転移魔法を使った時にどうやら異世界転移をしてしまったみたいです」




「俺には、どうしてやることもできないが、マシロが元の世界に帰るまでここに居ればいい」




「え?わたし、ここで暮らしていいんですか?わたし魔力も使えないのに……」


「大丈夫だ、俺だって使えない。あと、そんなこと外で言うものじゃないぞ!中二病に間違われるからな」




「チュウニ…なんですかそれ?」




「分からないならいい、強いて例を挙げるならああいう奴のっことを言うんだ」


と、ルナちゃんを指差す。




「初対面で自分は魔王だのなんだの言っていたからな。マシロより重症だろう」


「ルナちゃんが魔王……!?」




「なんじゃ?我を呼んだか?!」とベッドで寝転がりながらマンガを読んでいたルナが顔を上げる。




「いやいや、そんなまさか……」




「と言いますかわたし、ホントにここに居ていいんですか?」




「ああ、俺がマシロに居て欲しいんだ。毎日、俺の為に味噌汁を作ってくれないか?」




「え……お味噌汁だけでいいんですか??」


まるで求婚のようなことばでしたけど、フジワラさんが、わたしのことをなんて気のせいですよね。


「玉子焼きと焼き魚も頼む」




「はい、わかりました。喜んでお作りします」




こうして異世界の元魔導師と魔王との共同生活が始まった。


              ***

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追放魔導師と最強魔王―短編版― 高月夢叶 @takatuki

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