0-14【俄雨】
会堂に駆け込んだ神父の目に暗闇が飛び込んでくる。
明るい初夏の太陽に慣れた目は薄闇を漆黒の闇に変えた。
神父は目を細めて目が闇に慣れるのを待ちつつ、忍び足で会堂の奥へと進んでいく。
薄暗がりの中に長椅子が整然と並んでいる。
小さな天窓から伸びる陽光が空を舞う埃にぶつかり、一筋の光線となって奥に佇む十字架へと降り注ぐ。
そのすぐ脇、礼拝準備室へと続く木戸のあたりで何かが動いた。
神父は直ぐ様そちらに向かって全速力で駆け出した。
長椅子を飛び越え、一直線に木戸に向かうと、何者かが修道女を羽交い締めにして奥へと進んでいくのが見える。
「待ちなさい……!!」
神父は腹の底に響き渡るような低い声を出した。
暗がりに響くその声には、神の使徒が持つ
男は逃げ切れないと判断したのか影に顔を浸したまま、修道女を盾にして言った。
「来るな……来たら女を殺す……」
神父は平然と歩み出ると穏やかな声で修道女に言った。
「大丈夫ですよ。すぐに助けます」
修道女は涙を流しながらコクコクと頷いた。
「おい……!! 聞いてんのか!?」
「あなたは誰ですか? ここに何の用です?」
「うるせえ……!! 来るなって言ってんだよ……!!」
男の手に鈍い光が閃いた。
慣れた手つきで開いたバタフライナイフを修道女の喉に当てて尚も男は叫ぶ。
「こいつが死んだらてめえのせいだからな……!?」
「いいえ。その
コツ……コツ……とブーツを響かせゆっくりと近づいてくる神父に、男はナイフを向けて再び叫んだ。
「舐めてるとマジでぶっ殺すぞ!?」
その言葉と同時に、橙色の閃光が輝き男の手からナイフが吹き飛ばされる。
「次はあなたを狙います……」
青銅色のリボルバーを構えた神父を見て、男は足をもつれさせながら一目散に逃げ出した。
神父は銃を
「怪我はありませんか?」
「ほ、本当に、あの神父様ですか……?」
尚も怯えた表情を見せる修道女に神父は困ったような顔で微笑みながら言った。
「すみません。怖い思いをさせてしまいましたね。でも、もう心配はありませんよ」
そう言いながら修道女を椅子に座らせた時、ふと神父の脳裏に悪い予感が浮かんだ。
それはまるで西の空に浮んだ夕立を運ぶ暗雲のように、雷鳴を伴っては確信へと姿を変えるのだった。
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