0-3【神父と祈りとサンドウィッチ】

 

 燦々と降り注ぐ太陽が、少年の目を焼いた。

 

 思わず手で覆った後も、網膜にこびり付いた残像が、崩壊と再生を繰り返しては幾何学模様を映し出す。

 

 そんな少年を見た神父は柔らかな表情を浮かべて言う。

 

「急に明るい所に出たから、光に目が眩んだんですね」

 

 会堂の壁に塗られた剥げかけの白いペンキまでが、光に膨張してぼやけて見える。

 

 少年の目に映る世界は、何もかもが眩しすぎて、思わず再び足が止まりそうになったが、神父はそっと手を引いて、ひさしの下に据えられた木のベンチまで歩いていく。

 

 やっと陽の光から逃れた少年は、いまだ焼けてぼやけた視界の中に初めて神父の顔を見た。

 

 銀縁の小ぶりな丸眼鏡の奥に浮かぶ、温かいけれど、何もかもを見透かすような目。

 

 おでこの上に張り付くように生えた、切りそろえられた短い黒髪。

 

 司祭平服キャソックで覆われたがっしりとした身体つきに見入っていると、神父はサンドウィッチを差し出して微笑んだ。

 

「あなたもたくさん食べれば、いずれ大きくなりますよ」

 

 少年は慌てて目を逸らすと、小さく一度だけ頷いた。

 

 手渡されたサンドウィッチには、みずみずしいレタスとチーズ、そして真っ赤なトマトが挟んである。

 

 黙ってサンドウィッチの断面を見つめる少年の隣で、神父は手を合わせて口を開いた。

 

「愛する主よ。今日こうしてこの少年と出会わせてくださったことに感謝します。ともにサンドウィッチを食べられる恵みに感謝します。イエスの御名によりて……アーメン」

 

 呆気にとられている少年に向かって神父は笑いかけた。

 

「今のは神に捧げる感謝の祈りです。あなたと今日出会えたことも、こうしてサンドウィッチを食べられるのも、神の御恵みめぐみの中で起きたことなんですよ」

 

 再びサンドウィッチに視線を移して固まった少年の隣で、神父はサンドウィッチを頬張った。

 

「うん……美味い! さあ、あなたもお食べなさい。足りなければお代わりもありますよ。遠慮はいりません」

 

 ムシャムシャと音を立ててサンドウィッチを食べる神父の隣で、少年も恐る恐るサンドウィッチに口を付けた。

 

 噛み締めたサンドウィッチからトマトの果汁がじゅわりと染み出した。

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