2-31【やあやあ皆さんお集まりで】
「大変です……!! 正門に不審者が……!!」
部屋に駆け込んできた校長の言葉で、モニター係の女が素早くメイン画面を校門の映像に切り替える。
そこには襤褸を纏った半裸の男が校内に侵入する様子が映っていた。
モニター越しにも異様に発達した筋肉が確認できる。
男はぐっしょりと濡れているのか、足元のコンクリートにはぼたぼたと黒い染みが広がっていった。
「この男……目撃情報の男じゃないでしょうか……!?」
「あいつらは何をやってる!? 二人を呼び戻せ!!」
辰巳の怒声で坂本は慌てて二人に連絡を取った。
しかし呼び出し音に二人が応えることはない。
「だ、駄目です……応答ありません……!!」
「一体どうなってる……!? なぜこうも向こうに都合の良いタイミングで問題が起こる!?」
辰巳がデスクを殴りつけて叫んだ拍子に、驚いた校長のポケットからスマートフォンが床に落ちた。
その画面が目にとまり、辰巳の目が見開かれた。
慌ててスマホを拾い上げる校長に、辰巳は鋭い視線を送って言う。
「おい貴様……誰に電話してる……?」
「い、いえ……うっかり通話ボタンが入ってしまったみたいで……」
「嘘を吐けえええええええ!! 通話状態でポケットに忍ばせていたな? 誰に情報を送った!?」
怒鳴りながらにじり寄る辰巳に震え上がった校長は、窓に向かってスマートフォンを放り投げた。
地面に激突したスマートフォンは砕けた欠片を飛び散らせ、画面には蜘蛛の巣のような亀裂が走る。
激昂した辰巳が校長の腕を捻り上げると、校長は痛みに苦悶の声を上げた。
辰巳はそのまま校長の顔をデスクに叩きつけるようにして拘束すると、後ろ手に手錠をかけて言う。
「こいつの尋問は後回しだ……生徒を体育館に避難させろ。校内放送を使え。中に裏切り者が紛れ込んでいる可能性も捨てきれん……誰も校内から出すな!! 坂本は侵入者を足止めしろ……!!」
校内に警報が鳴り響き、教師達が生徒達を体育館へと避難させる。
不安げなのは生徒達だけでは無かった。
教師たちも同僚と互いに目配せしあい、異様な状況に囁きあう。
「不審者が学校内に侵入したって……」
「それなのに体育館に避難?」
「子ども達を校舎の外に逃がすべきじゃないですか?」
「馬鹿言うな……そんなことしたら異端審問にかけられるぞ……!?」
不安と疑心が蔓延する体育館に辰巳の声が響いた。
「静粛に……じきに本部からの応援が駆けつける。それまで誰もここから出ることは許さん」
その声で体育館の壇上に目をやった群衆にどよめきが広がった。
辰巳の足元には後ろ手に手錠を掛けられた校長が上着を剥ぎ取られた恰好で跪いている。
辰巳の手には黒光りする短い鞭が握られていた。
それを手のひらにトントンと当てながら辰巳が口を開く。
「この男には悪魔崇拝者の手引をした嫌疑がかけられている……よく見ておけ。これが悪魔に与した者の結末だ……!」
ヒュン……と風を切る音がしたかと思うと、ぐぅぅぅ……という呻き声が体育館に木霊した。
見ると校長の剥き出しの背中には痛々しいミミズ腫れが浮き上がっていた。
しかし辰巳の手がそれで止まることは無い。
何度も何度も執拗に鞭を振るっていく。
校長は声を上げずに耐えていたが、やがて鋭い悲鳴と泣き叫ぶ声が体育館を埋め尽くしていった。
「いいか? ここから逃げ出そうとした者も共犯とみなし、即断罪する。生徒だからといって手加減はしないぞ?」
痛みに震える校長を足で転がしながら辰巳が言った。
その頬には血飛沫がこびり付いている。
校長の背中の皮膚はミミズ腫れが裂けて血まみれになっていた。
誰もが口をつぐみ、体育館は異様な静けさに包まれる。
迂闊に声を出せば断罪されるかもしれない……
そんな恐怖が皆の口を固く閉ざしていた。
その時だった。
体育館の後方の扉が音を立てて押し開けられ、西日と共に一人の男が入場して言った。
「やあやあ皆さんお集まりで」
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