2-27【呪縛】
丹村に異変が現れると同時に犬塚の嗅覚があの時同様、血の臭いを嗅ぎ取った。
橘は痙攣する丹村を抱きかかえるようにして犬塚に助けを求める。
「犬塚さんわたしどうしたら……!?」
泣きそうになりながら口走る橘の頭に犬塚は手を伸ばして言う。
「落ち着け……大丈夫だ、丹村は俺が必ず助ける」
橘は「お願いします」と何度も繰り返しながら頷いた。
犬塚はカーステレオに手を伸ばしダイヤルを回しす。
すると車内にジャリジャリとしたノイズが走った。
「問題が起きた。おそらく丹村が呪いを受けてる……相手はおそらく丹村の父親だ……先に父親の方を片付けるぞ」
するとスピーカーからどこかで聞いたことのある女の人の声が聞こえてきた。
「協力者とやらに二人は預けられたんですか?」
「まだだ……」
犬塚はバツ悪そうに小声で答えた。
「まったく……あなたの作戦は行き当たりばったりが過ぎるんですよ……!! 丹村くんの様態は!?」
橘はその声が講演に来ていた女の祓魔師の声だと気がついた。
「意識不明で痙攣してる。待て、何かうわ言を言ってる……嬢ちゃん、丹村がなんて言ってるかわかるか!?」
橘は丹村の口に耳を当てた。
丹村の口から途切れ途切れに発される言葉を橘は一語ずつ復唱していく。
「か……え……ら……な……い……と……し……ぬ……帰らないと死ぬ……?」
「聞こえたか? 帰らないと死ぬ。そう繰り返してる」
真白はしばらく考えてから静かに口を開いた。
「おそらく……距離か時間、あるいはその両方に制約がある呪いです。これ以上家から離れれば、丹村くんは命を落とすかも知れない……」
「連れて帰るしかねえってことか……特公の動きは?」
「それが……今のところ動きがありません。静か過ぎるくらいです……」
「だが俺達には好都合だ。このまま丹村の家に向かう。そこで父親を確保すれば、丹村は被虐待児童としてこっちで保護できるだろ?」
「はい。現状丹村くんと橘さんを救うにはそれしか方法がありません。わたしは引き続き特公から身を潜めつつ、丹村くんのお父さんの監視を続けます。林道付近に隠れてますからピックアップしてください。何かあればこまめに連絡を……!!」
「わかった。すぐに向かう!!」
犬塚は通信を切ると振り返って橘に言った。
「そういうことだ。悪いがここで俺の連れを待っててくれ。必ず丹村を連れて帰って来る」
それを聞いた橘は丹村をきつく抱きしめて犬塚を睨んで言った。
「わたし、丹村くんから離れません!! 約束したから……!! わたしも連れて行ってください!!」
「馬鹿言うな!! 悪魔崇拝者だけじゃなく、特公にも狙われてるんだぞ!? 足手まといだ。大人しく待ってろ」
「それでも行きます……丹村くんとこのまま会えなくなるかもしれない……それならわたし、死んだほうがマシです……!!」
犬塚は橘の固い決意が宿った目を見て頭を掻きむしった。
「くそが……時間がない……向こうに着いたら安全な場所で待つと約束しろ。家の中には絶対入るな。いいな!?」
橘は決意を目に宿したままコクリと小さく頷いた。
†
通信が切れ、静寂が訪れた薄暗い林道の脇で真白は昨夜の京極とのやり取りを思い出していた。
木々の隙間を吹き抜ける冷たい風に打たれなが、真白はそっと独りごちる。
「これでいいんだ……もう誰も教会の犠牲にはしない……そうだよね? エリカ……」
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