2-17【不協和音】
「クソが……!! どういうことだよ……!?」
犬塚の悪態と壁を殴る音が狭い室内に響いた。
「やめなさい……学校の備品です」
真白のたしなめる声に犬塚は怒鳴り返す。
「てめえは何とも思わねえのか!? 特公の連中がいきなり割り込んできたんだぞ?」
「仕方がありません……上の判断です」
犬塚は先程の京極とのやり取りを思い出し、再び牙を剥いた。
†
「悪いが君たちは面談のメンバーから外れてもらう」
「どういうことですか!? わたし達はすでに学内の生徒たちとも面識があります! 不要な緊張感を与えないためにも我々が適任のはずです! その判断の根拠をお聞かせ願いたい!」
「僕よりずっと上からの指示だ。悪いが従う他ない……面談は特公の人間が執り行うそうだ……」
「特公!?」
思わず真白が大声を出した。
「君たちは彼らの指示に従い、現場での手伝いを頼む」
京極は感情を表に出さず、淡々とそう告げた。
「ふざけんじゃねえ……てめえ、あの時のことを忘れたのか? ガキを囮に使うような連中だぞ!? 何で特公なんかに面談を許可した!?」
真白のデバイスに向かって犬塚が叫ぶ。
すると低く冷たい京極からの応答が帰ってきた。
「口を慎み給え……犬塚弐級祓魔師……僕は君よりずっと上の立場だ。自分の感情だけで好き勝手動けるような御身分じゃない。それに」
京極は怒気を滲ませた低い声で唸る。
「腹が立ってるのは君だけじゃない……特公は悪魔憑きや悪魔討伐のためなら手段を選ばないことぐらい理解ってる……!! それこそ児童の安全など眼中に無いだろう……」
京極は一息置いてからいつもの声に戻って言った。
「いいかい? 君たちの新たな任務は、子ども達や無関係な人々の安全を守ることだ。君たちを現場に残すだけでも僕がどれだけ苦労したかを慮ってくれると嬉しいね……感情に任せて迂闊な行動を取るんじゃないぞ? 特に賢吾くん……君のプライドと子どもの命、選べるのはどちらかだ一方だと肝に命じてくれ……」
†
「何にせよ……室長は頭を下げてわたし達を現場に残したんです。迂闊な行動は控えてください。誰かが犠牲になるくらいなら屈辱くらいいくらでも舐めてやりますよ」
「はっ……ご立派なことだな……だが俺は上の命令なんざクソ食らえだ……ましてや特公の連中の言いなりなんぞになってたまるか……!!」
そう言って部屋を出ていこうとする犬塚を真白が呼び止める。
「先輩……!! これは室長命令ですよ!? わたし達も知らないような様々な要因を配慮したうえで、これが最善と判断されてるんです。規則に従ってください!!」
犬塚は足を止めて振り返る。
そこには敵を、そして自分さえもを噛み殺さんとする狂犬の姿があった。
「現場に立たない上の奴等に何が分かる? そんな悠長なこと言ってるから、この前も手遅れになったんじゃねえのか……!?」
犬塚の言葉に真白も険しい表情を浮かべた。
「はい? なんですかそれ? じゃあご自分の判断通りならアキラくんを助けられたんですか? 釘男の時だって先輩だけじゃ子どもが死んでたかもしれないくせに……!」
犬塚の目が座り、スッ……と狂気の光が消え失せた。
犬塚は今まで見せたことのない冷たく暗い目で真白を見据え言い放つ。
「結局てめえも、自分が嫌いな一族と同じだな。口を開けば命令だ規則だと……上の意見はいつでも正しいのか? 上官様だか何だか知らねえが、生意気なんだよ……俺はもう、誰の指図も受けねえ」
そう言って犬塚は踵を返し、今度こそ出口へと向かった。
「待ちなさい……!! 室長の努力を無駄にする気ですか!? 冷静になってください!!」
犬塚は一瞬だけ足を止めたが、結局振り返ること無く部屋を出ていった。
独り残された真白は頭を掻きむしって、小さく壁を殴りつける。
「くそ……」
吐き出した悪態はまるで煙草の煙のようにゆらゆらと部屋を漂い続けていた。
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