2-13【学舎の現状】

 

 講演が終るとすぐに真白は腕に巻いたデバイスで京極へと連絡を取った。


 

 数回の呼び出し音の後に京極がいつもの調子でデバイス越しに言う。

 

「一体どうしたの? 講演会で賢吾くんが何かやらかした?」

 

「いいえ。講演はうまくいってます。そんなことより、美深高校に魔障反応は出ていませんか?」

 

 その言葉を聞くなり京極の声が真剣味を帯びる。

 

「何があったんだい?」

 

「血のニオイだ。大量虐殺クラスの強烈な血のニオイがしたかと思えば、それが一瞬で消えやがる」

 

 犬塚が真白の右腕に向かって吠えた。

 

「なるほど……それでニオイの元凶は?」

 

「まだ不明です! 捜査の許可をお願いします!」

 

 真白は犬塚の頭を押し退けてデバイスを自身の顔に近づけ言う。

 

「わかった。捜査を許可する。ただし表向きはあくまで講演会の一環として執り行うこと。相手の正体がわからない以上、こちらがニオイを察知していることを気づかれないように……」

 

「わかりました!」

 

「こっちも周囲を重点的に魔障探知機レーダーで当たってみる。なにか分かればすぐに連絡をくれ。こちらからは以上だ」

 


 二人は通信を終えるとすぐさま校長室へと向かった。

 

 笑顔で講演会の成功を労う校長だったが、二人の真剣な目に気づき表情を固くする。

 

「どうかしましたか? 何かあったんですか……?」



「重要なお話があります……もしかするとこの学校に悪魔憑きないし、被害を受けている児童がいる可能性があります」



 真白の報告を黙って聞いていた校長が、大きく長い溜め息をついた。

 

 目頭を押さえながら俯き、もう一方の手のひらを二人に向けながら、校長は重たい口を開く。

 

「平和だけが取り柄だったのですが……それが最大の魅力でした……まさかそんな不吉なことが見えない所に潜んでいたなんて……」

 

「今は落胆している場合ではありません。一刻も早く原因を突き止めなければ!」

 

 真白の声で校長は顔を上げると、一度だけ大きく頷いた。

 

「わかりました。こちらの動きを気づかれてはいけないということでしたね……それでしたら特別面談という形はどうでしょう? せっかく祓魔師の方が来てくださったから無理を言って私がお願いしたということにすれば、少しはカモフラージュになるのでは?」

 

 犬塚と真白は顔を見合わせた。

 

「やはり素人考えでしょうか……?」

 

「いえ……いい案だと思います。ただ、大抵の場合こういう時は難色を示されるので……正直少し驚きました」

 

 真白の言葉を聞いた校長は再び俯くと今度は大きく頭を下げて言う。

 

「まことに申し訳ございません……今教育の現場は駄目になっている……! 本来なら子ども達の成長と安全を第一に考えるべきはずの学校が、保護者や世間の顔色を第一にしてしまっているんです……」

 

「最初に宣言した通り、出来ることは全力でお手伝いさせて頂きます!!」

 

 そう言って顔を上げた前田の目にはうっすら涙が浮かんでいた。

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