2-11【マッキーくん】
全校生徒が集まる体育館の壇上では真白が真剣な声で虐待の概要を説明している。
被害者が助けを求めるためには、それを受け入れる周囲の理解が何よりも大切であると訴えると、教師陣の中から拍手が上がった。
見ると前田校長が力強く頷きながら熱心に手を叩いている。
真白はそれを見て表情を緩めると、先程までとは打って変わって砕けた口調で大声を出した。
「さて! 今日はなんと……魔障虐待を引き起こす悪魔憑きを実際に連れてきました!!」
生徒の中にざわめき起こり、それに混じってクスクスと笑う声がする。
真白はそれを見て口元に笑みを浮かべると一際大きな声で叫んでいった。
「悪魔憑きのマッキーくんです!! 皆でマッキーくんを呼んでみましょう!!」
悪乗りした生徒たちのマッキーコールに迎えられて、濁った白目にだらりと舌を垂らした嫌にリアルな犬のキグルミが姿を現す。
ふてぶてしく舞台の中央に歩いてくる様が妙に悪魔憑きとしてのリアリティーを演出しており、数名の女生徒からは小さく悲鳴が上がった。
「皆さん!! これが悪魔憑きのマッキーくんです!!」
「犬塚だ……」
ぼそりと呟く犬塚の声をマイクが拾い、生徒たちに笑いが起こる。それを見た真白はにやりと笑い犬塚に目をやった。
「本人はそう言っていますが、悪魔憑きの言うことを信じてはいけません! 悪魔憑きや悪魔は真実に嘘を紛れ込ませて皆さんをたぶらかそうとします! 惑わされてはいけません!」
大げさな身振りで声を上げる真白を、キグルミの口の奥から恨めしげに犬塚が睨みつける。
そんな犬塚と目が合ったが、真白はしら……と無視して寸劇を続行した。
「悪魔憑きは本性を現すとこのような異形の姿に変貌します! ですが普段からこんな姿をしているわけではありません!! 普段は皆さんと同じように、人間の姿で、巧妙に社会に紛れ込んでいます!! その姿が……こちらです!!」
そう言って真白は犬塚のキグルミを横から掴むと、勢いよく剥ぎ取った。
マジックテープの剥がれる音と同時に生身の犬塚が壇上に現れる。
それを見た数名の女生徒から、今度は黄色い悲鳴が上がった。
「悪魔憑きは見た目からまったく判断がつきません。なので被害者を見つけることが、悪魔憑き発見の最短ルートというのが我々の苦しい現状です」
真白は真面目な目で生徒たちを見渡しながら言った。
「ここで極東聖教会からお願いがあります。日頃から他者への関心を持ち、わずかな変化を見落とさないであげてください。”あなたの隣人を、あなた自身のように愛せよ” そういう心がより良い社会を作っていきます。市民の皆様の目を、どうか我々にお貸しください! 些細なことでも構いません。気になることがあるときは極東聖教会にご一報をお願いします。その時は、わたし達祓魔師が悪魔憑きを確保いたします!」
そう言って真白は犬塚の首にリードがくくりつけられた首輪をかけてポーズを取る。
再び歓声と悲鳴が巻き起こり、生徒たちから一斉に拍手が送られた。
仏頂面で背中を丸めた犬塚を引き連れ、真白が手を振りながら舞台袖へと歩いていく。
「大成功でしたね。犬塚先輩」
にやにやとそう言う真白に向かって犬塚は首輪を投げつけながら言う。
「言ってる場合か……壱級祓魔師」
その表情は険しくどうやらただの不機嫌ではなさそうだ。
真白も真剣な面持ちに戻ってつぶやく。
「まさか……」
「そのまさかだ。また血のニオイがした……」
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