2-9【古書】
妙な高揚感を抱えたまま、丹村はベッドに横たわり天上を眺めていた。
「橘……」
何気なく口にした名前にむず痒い気持ちがこみ上げて、丹村は寝返りをうつ。
すると視線の先には本棚が佇んでいた。
丹村はむくりとベッドから起き上がり本棚へと手を伸ばす。
適当なものを書架から抜き出し
くねくねと火の周りを踊る影。
その絵が先日の幻と重なり、丹村は慌てて本を閉じた。
再び視線を落とした本の表紙は見たことのない古びた物で、丹村は思わず顔を顰める。
すると閉じた
自ら床に飛び降りて物陰に逃げ込む不気味な虫の姿に、丹村の身体は総毛立つ。
その時、掴んだ本から、うじゅ……うじゅ……とした気色の悪い感触が掌に伝わってきた。
……虫の感触じゃない……
恐る恐る目をやると、本の表紙はねっとりとした粘膜に変わり、その中央には大きな目玉がひとつ、カッと見開きこちらを睨んでいる。
血走った目にはどす黒い悪意が満ち満ちており、丹村は叫び声を上げてその本を投げ捨てた。
「わ゙あ゙ぁぁぁあぁぁぁぁああ……!!」
その声を聞きつけた父が、どんどんと足音を響かせながら駆けつける。
父は扉を開くなり丹村に問いかけた。
「どうした? 何事だ!?」
「あ、あれ……」
震える指で壁の方を指差し真っ青な顔で丹村は呟く。
父は指差された方へ歩いていくと、古びた本を拾い上げてパラパラと中を開いて言った。
「紙魚に驚いたのか? 古い本は保管方法に気をつけろ……本が駄目になる」
そう言って父はその本を丹村に手渡した。
躊躇いがちに受け取ったソレはすでにただの古ぼけた本に戻っている。
丹村は狐につままれたような顔で本を凝視した。
そんな息子に眉をひそめながら、父は部屋を出ていった。
……さっきのはいったい……
まだ鳴り止まない心臓が、ばくんばくんと警鐘を鳴らしている。
俺はおかしくなったのか?
それとも……
何か良からぬことが起き始めているのか?
そのとき丹村の脳裏にいつもの景色がフラッシュバックする。
血の滴る白いタイル、黄ばんだ指先、薬品の臭い……
それを振り払うように丹村はその本をクッキーの空き缶に封印すると、ベッドの下に押し込んだ。
……僕は君……
何処かからそう聞こえた気がして、丹村はぶるりと身体を震わせるのだった。
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