1-26【疑いの目】
悪魔の言葉に真白は表情を険しくする。
応援が到着する前に蛇の目を破られれば、おそらく自分と犬塚の命はないだろう。
動揺を誘ってこちらの術を解く策略かも知れない。
真白はそう考え口を固くつぐんだ。
「コレを破られることを案じているのか? お前が真に案じるべきはそんな些末なことではないはずだが? 他に聞いている者はいない。少し話をしようではないか?」
真白は悪魔を睨みつけたままなおも黙っていた。
すると悪魔は目を閉じ何かを味わうように舌を動かし始めた。
ねろねろと悍ましい動きをする舌に、真白の嫌悪が高まっていく。
その動きは甚だ神経に触れるような不快なものだった。
やがてそれは自分の体内を何かが這い回るような錯覚に姿を変えていく。
「くくく……親友の……そうかそうか、エリカというのか……お前はただ黙ってそれを眺めていたわけだ……くくく……それで
「なぜそれを……?」
悪魔の呟きに思わず真白は口を開いた。
悪魔は意地悪に片目を開いて答える。
「少しは話をする気になったかね?」
「黙りなさい……!!」
そう叫んだ真白は柄に手をかけ刃を抜いた。
しかし悪魔は動揺する素振りを見せず、相変わらずニタニタと笑みを浮かべている。
「あいにくこちらは口と目くらいしか動かせるものがないのでね。君が私を切るとしても、抵抗の一つもできやしない。どうだね? 試しに切ってみるか?」
真白はぎりぎりと歯を食いしばり、刀を握ることしか出来なかった。
自分の刃では悪魔を祓うことは出来ない……
そのことを理解って悪魔が挑発しているのは目に見えていた。
……現状維持が最適解……
……ここは奴の話を聞いて少しでも気を逸らす……
真白はそれを悟られぬよう慎重に口を開いた。
「なぜエリカの名前を……?」
悪魔は口を大きく歪めて満足そうに笑みを浮かべる。
「お前の虎馬を通じて、過去の傷が流れ込んでくるのだよ……まるで手に取るように」
「なるほど……癒えない傷を司る悪魔でしたね……」
「そうとも……だが重要なのはそこではない。私は君が知らない真実を知っている。そこが重要だ……知りたくはないかね? なぜエリカが死なねばならなかったのかを……?」
真白の心臓にどくん……と、熱いモノが流れた。
目を見開いたまま固まる真白に、悪魔は甘い毒をちらつかせる。
「君の目は全てを疑う聡い目だ……それは素晴らしい目だよ? 与えられたものを盲信する馬鹿どもとは一線を画する目だ。なぜそれを虎馬憑きなどと揶揄されねばならない? 誰が君を卑しい身分に堕としたんだ?ん?」
「それは……」
「否定しないね。自分の目に誇りを持っている証拠だ。いやいや!! 勘違いしないでくれ、悪く言っているわけじゃない。私は君の目を高く評価しているだけだ。君の価値を引き下げているのは、教会だよ……!! あれは欺瞞に満ち満ちている。信用するな……!! 心を許すな……!! 常に疑え……!!」
それを聞いた真白は再び険しい表情に戻り悪魔を睨んだ。
しかし態度とは裏腹に、真白の中では激しく心が掻き乱され、得体の知れない動悸が高まっていく。
それでも真白は平静を装い、静かに悪魔に言った。
「やはりあなたとの会話は無価値でしたね……そんな言葉を鵜呑みにするとでも?」
「くくく……蛇の目を持つ女よ……大事な話がまだだったね? 君の親友エリカがなぜ死なねばならなかったか……?」
「もうあなたの話は沢山です……!!」
動悸が激しくなり、声が荒くなる。
悪魔はそれを見て目を細め、満面の笑みを浮かべて続きを口にした。
「教会がエリカを殺したんだ。保身と隠蔽が彼らの本質だ……!!」
その時、ヘリのプロペラの鳴らす轟音が響き、窓ガラスを破って何かが投げ込まれた。
「ああ……時間切れのようだね? サヨウナラ。蛇の目を持つ女よ。また会えるのを楽しみにしているよ……」
悪魔の頭が巨大に膨らんだ。
すると悪魔の眼球がぶちぶちと音を立てて悪魔の身体から飛び出していく。
目玉はずるりと神経を根こそぎにして飛び出すと、蛇のように這って闇の奥へと消えていった。
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