1-16【開放】
玄関ドアの脇に
ひゅぅぅ……と風が吸い込まれるような音が、ドアの隙間から聞こえてくる。
隙間の奥に目を凝らすと、じわじわと黒ずんだ空気が、廊下の両脇に貼り付けられた仮面達の口から漏れ出していた。
「ひでえ魔障だ……今まで
「おそらく状況が変わったんです……アキラくんから教団に情報が漏れたと思っている可能性が高い……!!」
「もたもたしてられねえな………」
そう言って犬塚は独り玄関に滑り込んだ。
「ちょっと……!! 独断専行……!!」
真白が慌てて玄関に突入すると、かたかたかたかた……
壁の仮面達が音を立てたような気がした。
犬塚もちらりと音の方に視線を飛ばすが、特段変わった様子はない。
再び犬塚が前を向くと、眼前に浮かぶ真っ白な仮面と目が遭った……
「くっ……」
慌てて距離を取り銃口を向けると、壁の仮面達が一斉に口角を吊り上げてゲラゲラと笑い声を上げた。
犬塚は最も禍々しいニオイを放つ白い仮面に向けて発砲したが、弾丸はヒラリと宙を舞った仮面を捉えることが出来ない。
続けざまに打ち込んだ銃弾も、壁に穴を開けるばかりだった。
加勢しようと真白も前に出たが、狭い廊下の中では長い太刀を振るうことが出来ず、納刀したまま太刀の中心付近を両手で握り、
「
そう叫んだ真白に犬塚が牙を剥く。
「馬鹿か……!? こいつらは時間稼ぎだ……!! そんなことすりゃ悪魔の思う壺だろうが……!!」
「しかし……!!」
そこで言葉に詰まった真白の前に後退する犬塚の背中が迫った。
「……虎馬を開放する……!!」
背中越しに叫ぶ犬塚の言葉が暗い廊下に反響した。
「え……!? 先輩の虎馬は嗅覚の強化なんじゃ……!?」
「そいつはデフォルトだ……」
そう言って犬塚はカリヨンをホルスターに仕舞うと、ポケットに両手を突き入れた。
カシャン……と音がして、引き抜かれた両手には、柄の先端に
刃まで黒いナイフからはグルグルと唸り声のようなものが聞こえており、それを聞いた真白の背筋に冷たいものが走った。
「壱の塚……
犬塚は両手を左脇で十字に交差させるように構えると、仮面の群れに突っ込んでいく。
仮面達は隊列を組んで次々と犬塚に襲いかかったが、犬塚は近づく者を片っ端からと叩き割っていった。
変則的に、小さな
「何してる……!? 今のうちにさっさと行け……!!」
真白は犬塚の脇をすり抜けて、奥に見える扉へと走った。
その時仮面の一枚が、犬塚の暴風をすり抜けて真白の後を追う。
「くそが……!!」
わずかに犬塚の間合いから外れた仮面に犬塚は悪態を付いた。
「おい……!! 一体そっちに向かったぞ……!!」
その声で振り向いた真白の目が、またしても紅く光ったような気がした。
ピタリ……
仮面の動きがほんの一瞬だけ止まった。
犬塚はナイフの柄の穴に小指を通し、間合いを伸ばすと、大きく弧を描くようにして取り逃がした仮面を引き裂いた。
「そっちはよろしくお願いします……!!」
真白はそう言って扉を開け放つと、奥の闇へと消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます