虹の端は見えない。

言の葉綾

虹の端は見えない。

私は私しか知らない。

そんなの、普遍の事実。

思っていること一言一句、口に出すことなんてできないだろう?

だから他人なんて信用できない。

上辺で笑っているだけかもしれない。

よく思われたくて褒めているだけかもしれない。

他人に費やす時間があるなら、自分の空想に浸りたい。

私だけの世界で生きる。

これが私のモットー。


雨が降っているのに晴れている。

神様は靴下を履き間違えた?

わからないけれど、湿りが心を濡らす。

下駄箱にサンダルをしまって、傘を差しながら、帰路を辿る。

JKの欠片もなく、脳内の王子様に愛を囁かれながら。

ザワザワザワ・・・・ぴた。

雨の音が、突如途切れた。

空を見上げる。

現れたのは、七色のアーチ。

わあ、綺麗だな。

はい、おしまい。

この自然の神秘に向けられる関心もほんのひとにぎり。

にぎれば簡単につぶれてしまうくらい、すごく脆い。

七色のアーチは、クリアに空の世界の案内役をしている。

わあ、すごい!

私の背後からする声。

クラスメイトでヒエラルキー上層部の女子。

普段から鼻につくような声しか出さないくせに、今は空気と調和して溶け込んでいく声を出した。


虹ってどこからあるんだろう?

その問いかけの矢尻は、私に向けられていた。

そんなの知らない。虹の起源なんて、虹の端なんて、誰にも見ることなんて・・・・

できないでしょ?

じゃあ見に行く!

何を言っているんだろう。

不可能を可能に変えるなんて、物理的にできないでしょう?

見ることなんてできないでしょ。

彼女は振り向く。

できないけれど、近づきたくなった!


彼女はよく声を掛けてくる。

空想の世界を邪魔する悪女だ。

だけど、今まで知らなかった純真な瞳が、私の心にしみこむ。

いつもうるさいくせに、周りを見ている。

いつも癇に障るくせに、とても優しい。

いつも寝ているくせに、頭はいい。

すべて、彼女の言葉から知ったこと。

今まで興味の対象ですらなかったのに、私は彼女の傍らにいることが、どことなく愛おしく思っていた。

できないこともやろうとして。

本気になって泣いて。

バカみたい。子どもなの?

昔の私は、そう言っていたことだろう。

でも、今の私は、こう言う。

あなたならできる。できなくても、近づける。

あなたのすべてを、私は知ることができない。

奥底まで心を読み取る超能力者じゃないから。

誰も、相手のすべてを知ることはできないけれど。

知りたくなったら、近づきたくなったら。

相手の希望になれるんじゃないのか?


虹の端は見えない。

見ることができない。

でも、見たくなったら、無我夢中で走ればいい。

あなたのことを、知りたいように。

あなたのもとへ、近づきたいように。


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虹の端は見えない。 言の葉綾 @Kotonoha_Aya

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