記録1:祠と解けない雪⑨
「スノードームは、『悪いナニカ』を封印する道具だったんだな。集落に『悪いナニカ』が現れ、祠や雪はそいつを閉じ込めるための力だと考えられた。力を得た雪で『悪いナニカ』を埋め、それを祠に封印する。
洞窟を作ったのは、あいつを封印した後だったのかもしれんな。悪戯でスノードームを触られたら困る。だから、人目を避けるように洞窟を作り、そこに隠した。洞窟内で灯りを点けると、祠の存在を知られる可能性が高くなる。それを避けるため、暗闇で移動することを前提にした。流石に徹底しすぎだと思ったが、これなら納得だな」
「何を冷静に分析してるんですか。冴子先輩のせいで、呪い殺されるところでしたよ」
初芽がささやかな抗議をするも、冴子には全く届いていない。むしろ、怒られる意味が分からないと誇らしげにしている。
「私の頭脳のお陰で助かったんだから、問題ないだろう。そんなことより、聞いて驚けよ、初芽。集落の人間は、祠と解けない雪に重要な意味があると信じた。咄嗟に、自分のこの推測に繋がったんだよ。
集落の人間は、祠と解けない雪を用いて、『悪いナニカ』を封印することにした。だから、力を得た雪でそれを埋め、スノードームに閉じ込めた。逆さにすると、土台にくっついていた黒い棒が見えたな。恐らく、あれが『悪いナニカ』だ。雪がドーム状の部分に偏ったことで、黒い棒が現れた。それによって、完全な封印が解かれてしまった。逆さにしてもう一度雪に埋めれば、絶対に助かると確信があったさ。
それと、さっきの村人の会話。『アレの向き』は、スノードームの向きのことで、反対に置かれていないか質問していたんだ。『埋まっとる』は、『悪いナニカ』は雪に埋まっているから大丈夫という、質問の答えだったんだな。二人の会話を聞いておいて、良かっただろう。一瞬の推理に役立った。
はぁ。オカルター雅樹先生はこれに気づかなかったんだろうな。だから、お仲間と一緒に封印を解いて、殺されてしまった。私達が来た時に、『悪いナニカ』は封印されていた。先生達が殺されたすぐ後に村人が駆けつけ、封印したんだろう。その後は、四人の死体を△山に捨て、転落死に見せかけた」
冴子は、今までに見せたこともないほど悲し気な瞳をしていた。人のことなどお構いなしに振り回す先輩が、他人に対して大きな感情を向けている。なぜか、初芽にとってはそれが気に入らなかった。
文句の一つでも言ってやろう。そう思って口を開きかけたが、冴子の方が早かった。
「さてっ! 帰るぞ、初芽。今日は重労働を二回もしてもらうからな。あとで、蜂蜜チョコチップ生クリームラテを奢ってやる」
「むしろ、それくらいしてもらわないと割に合いませんって。一番大きいサイズですよ」
「もちろんだ!」
冴子の笑顔に、初芽の中のモヤモヤとした気持ちが吹き飛んだ。平凡でつまらない人生だ。たまには、冴子に振り回されて、冒険するのも良いのかもしれない。飲み物一つで買収される安い人間だ、と我ながら笑えてくる。
「……って、ちょっと待て」
「むっ、どうした?」
「重労働を二回」の言葉と過去形ではない言い方に、引っかかりを覚えた。祠を見ると、私達が荒らしたままになっている。
「何を固まっているんだ? 早く祠を戻してくれ」
「えぇっ!? 戻すのも私の仕事ですか」
「当たり前だ。ほらほら、集落の人間が来ちゃうだろ。頼んだ! 頼りにしてるぞ」
ぞ、で可愛くウィンクをされた。しかし、そんなことをされてもモチベーションは上がらない。やる気は起きない。それ以前に、初芽一人で祠を戻す意味が分からない。頭が痛くなってきた。
遠くで、何人かの話し声が聞こえた。この洞窟は一本道で、出入り口を塞がれたら逃げられない。隣では、冴子が両手を合わせて、お願いと上目遣いを向けている。
初芽は、「も~」と呻き声を漏らし、足早に祠へ駆け寄った。
初芽と冴子のオカルト日記 咲谷 紫音 @shionnsakuya
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