呪われた土地

三鹿ショート

呪われた土地

 駆け落ち同然に飛び出してきてしまったために、落ち着くことが出来る土地を探す必要があった。

 公共の交通機関を使用し、生まれ育った土地から離れながら、宿泊施設を転々としていく。

 誰の目も気にすることなく愛する彼女と過ごすことが出来るこの日々は、私にとっては良いものだった。

 だが、慣れていない生活に疲労していることは誤魔化すことができず、我々は段々と口数が減っていった。

 このままでは、彼女との関係が悪化してしまうのではないか。

 そのような不安を抱きながら飲食店で食事をしていたところ、従業員が我々に声をかけてきた。

「旅行ですか」

 多くの荷物を所持していることから、そのように考えたのだろう。

 私が首肯を返すと、従業員は口元を緩めた。

「観光する場所は決まっているのですか」

「特に、目的はありません」

「では、面白いものを紹介しましょう。この店を出ると、目の前に大きな山を確認することができます。その中に、奇妙な物体が存在しているのです」

「奇妙な物体、とは」

「それは、見ることで分かることです」

 そう告げると、従業員は他の客のところへと向かった。

 これまで移動することだけが目的だったために、このような息抜きも良いかもしれない。

 彼女も同じ意見だったらしく、我々は従業員が話していた山に行くことにした。


***


 従業員の言葉通り、山という自然の中では明らかに異質と呼ぶことができる物体が存在していた。

 風雨にさらされ続けていたのか、汚れなどが目立つものの、人工的な物体であることに間違いない。

 少しばかり汚れを拭うと、その人工物は銀色の光を放った。

 直接目にしたことはないが、似たような物体の存在は、本などで知っていた。

 まさかと思っていると、其処に一人の女性が現われた。

 女性は我々を認めると、軽く頭を下げた。

 そして、その人工物の前に野菜や果物を供えると、その場を後にしようとした。

 思わず、私は女性に声をかけた。

 眼前の人工物について知っていることがあるかと問うたところ、女性は頷いた。

 話を聞くために、我々は近くの長椅子に腰を下ろした。

 女性は咳払いをしてから、幼子に昔話を聞かせるかのように口を動かし始めた。


***


 この人工物を発見したのは、とある兄と妹だった。

 乗船していたと思しき女性が倒れていたために、二人は女性を自宅へと連れて行き、介抱した。

 美しい女性だったが、兄は意識を失っているその相手に手を出すことはなかった。

 何故なら、兄は妹を愛していたからだ。

 それゆえに、二人は村から迫害され、離れた家で生活していたのだが、誰にも邪魔されることなく二人きりで生活することができていたために、不満は無かった。

 やがて、女性は意識を取り戻した。

 自分たちとは外見が大きく異なっているものの、言葉は通じた。

 女性は二人に対して感謝の言葉を吐いた後、くだんの人工物のところへと向かった。

 女性が確認したところ、乗船していた人工物は壊れてしまったらしい。

 困り果てている女性に、兄と妹は共に生活することを提案した。

 見ず知らずの相手を介抱しただけではなく、支えてくれようとするその心優しき態度に、女性は涙を流しながら、二人を抱きしめた。

 それから三人は平和に生活をしていたのだが、あるとき、村の人間に女性の存在を知られてしまった。

 素性は不明だが、その美しい女性を村の男性たちが放っておくわけがなかった。

 連れ去られた女性が二人の家に戻ってきたときには、見るも無惨な姿だった。

 日に日に弱っていく女性は、二人に向かって告げた。

「このような土地は滅ぶべきですが、あなたたちまでも巻き込みたくはありません。ゆえに、あなたたち以外の人間が子孫を残すことができないようにしておきました」

 どういうことかと疑問を抱いたが、それが解決する前に、女性の生命活動は終焉を迎えた。

 数年後、二人は女性の言葉の意味を知った。

 村では、新たな子どもが誕生することが無くなっていたのだ。

 それに反して、二人の間には多くの子どもが誕生していた。

 その事情を知ると、村の人間たちは手の平を返し、村を存続させるために二人を厚遇するようになった。

 それ以来、村では血の繋がった人間同士が関係を持つことを禁ずることが無くなり、今でもその風習が続いているということだった。


***


 その話を聞いて、我々はこの土地に住むことを決めた。

 事情を説明したところ、女性は笑みを浮かべながら近くの居住区まで案内してくれた。

 それからは話がとんとん拍子に進み、私と彼女は誰に責められることもなく、堂々と生活することができるようになった。

 ゆえに、我々のような人間に対して、この土地を紹介したくなった。

 近くの街に出なければ働く場所が無かったため、其処で我々と似たような境遇の人間を目にしたとき、くだんの土地を紹介しようと決めた。


***


「過疎化が進んだゆえにあのような人間たちを受け入れるようになったが、まさかこれほど多いとは、想像もしていなかった」

「悪いことではないでしょう。愛する人間と共に生活することができるのですから」

「しかし、山の中に存在している邪魔なあの物体をあのように利用するとは、よく考えたものだ。きみが語るような伝説など確認されていないのだからな」

「破壊しようとすると、何故か頭痛に襲われてしまうのですから、特別な力を有していることは間違いないでしょうね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

呪われた土地 三鹿ショート @mijikashort

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ