3.オーク VS リオン―――ジャッジメント
肩で息をするブリジット。
リオンは彼女に余力が無いことを確認。
剣があることも確認。
オークが死んでいることは魔力が感じられないことで確認。
(討伐の功績がオークなのは物足りないが、剣は手に入る。厄介だったブリジットも……)
「すまない。助かった」
「おやおや、『光のブリジット』ともあろう方が、まさかオークに苦戦していたとは……」
すっかり憔悴したブリジットには言い返す余力も無かった。
したがってリオンのわずかな殺気にも気付かず、無防備に背中を見せてしまった。
リオンは拾った石を掴み、振りかぶった。
(死ね!!)
「おい」
「何!!」
腕を巨大な手に掴まれていた。
「え?」
驚いて振り返るブリジット。
手に握られた石で状況を察した。
「き、貴様、まさか……!!」
「お前、そうやってマリアを殺したのか?」
ドドに核心を突かれ、リオンの顔がゆがむ。
それだけでブリジットが理解するには十分。
ドドの指摘が真実であると雄弁に語っている。
「オークごときが、ぼくの計画を!!」
リオンの身体に炎が纏う。
手を放すドド。
「やはりな。マリアがエルダーゴブリンごときに遅れを取るはずない。彼女の頭蓋、後頭部に外傷が見られた」
「……このオーク、まさかエルダーか!?」
なぜ、勇者であるマリアが死んだのか。
なぜ、リオンたちが捜索に固執したのか。
なぜ、城へ戻ったはずのリオンたちがここにいるのか。
ドドの分析で、ブリジットの疑問が解けた。
「貴様ぁぁ!! 冒険者でありながら、貴様らが師匠を!!!」
「ふん、今更気付いても遅いんですよ!」
「なぜ勇者を……!!? なぜ殺した!!!?」
「女が勇者だの英雄などと持ち上げられているのがおかしいからですよ」
「……なに? なにを、言って……?」
リオンにとって才能のある自分が女に劣ることは許されないこと。あってはならないことだった。
女は自分をもてはやすための存在。
そう決まっていた。
だが、マリアはそんなリオンが遠く及ばない力を持っていた。
そればかりかマリアはリオンからの誘いを断った。
(このおれをコケにした。一晩相手をしてやろうと言っただけなのに、このおれをあんな眼で見やがって、女の分際で見下しやがって)
「おい、お前たち、逃がすなよ!!」
リオンに呼応し、仲間の一人が矢を放つ。
魔力が込められたそれはさながらライフルの弾丸。
標的はブリジット。
その彼女の眼前に緑の壁が現れ、複数の矢は彼女の周りへと逸れて着弾した。
「お前……?」
「何だ、このオークは!?」
ドドの身体に無数の風穴が空いている。
(なぜ女を庇った? まぁいい。今度は確実に首を落とす!!)
リオンが炎を纏わせた剣を振るう。
大気を焦がし、辺りを赤く染める大炎。
「燃えろ、雑魚が!!!」
そのわずかな合間に、ドドの傷は完全に塞がっていた。種族的な特性で治癒力が高いオークだが、その回復速度は異常。
それを可能としたのは確固たる肉体のイメージ。損傷個所に対する能動的な修復命令。
生物が当たり前に持つ治癒はドドの人体の知識、強靭な精神と意志によりドド固有の能力と化している。
「剣を借りるぞ」
「は?」
握力が無いブリジットから剣を奪い取った。
握りを確認し、ブンブンと振って感触を確かめる。
ドドが握るとまるで短剣だ。
リオンとドドの身体が交錯する。
はじけ飛ぶリオンの腕。
「う、うわぁぁ!!! 腕が、ぼくの腕がぁぁ!!!」
柳生新陰流『
三寸の見切りによるカウンター。
「なっ……剣技だと!?」
ブリジットは一目見て、その技のレベルの高さが分かった。
相手の動きを予測する経験則と知識、そこに身体を合わせる鍛錬の積み重ね、そして、相打ちスレスレで迷わない胆力。
これらはまさに剣士の必要条件だ。
リオンの腕を跳ね飛ばした後も残心を怠らないドド。
ドドはリオンの身体を盾に矢による不意打ちを防ぐ。
枝葉に隠れた狙撃手は思わず舌打ちをした。
(くそ、あのオークおれの射線を見切ってやがる!)
ドドは剣を槍投げのごとく、明後日の方向に投げた。
剣技に驚いたブリジットだったが、不思議とこの槍投げのフォームの方が堂に入る気がした。
それもそのはず、『合撃』は見様見真似。
槍投げは実際に研鑽を重ねて極めた。ドドは陸上競技選手だ。
「ぎゃ!!」
短い悲鳴の跡、枝葉の網を突き破って遊撃手の男が落ちてきた。
リオンを突き飛ばし、再び振りかぶる。手にはリオンの剣。
投げる方向は決まっている。
もう一人潜伏していた盗賊職の男がとっさに両手を上げて出てきた。
「こ、降参だ!! 殺さないで!」
あっという間の出来事にブリジットは唖然として固まっていた。
※そのオーク、荒神につき よるのぞく @blood6
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