2.オーク VS 英雄―――デュエル
ブリジットは全力を出した。
様子見は一切なく、現れたオークを斬ることに全力を注いだ。異様な風体のオーク。纏うのはベアウルフの毛皮。魔力の気配も無い。ブリジットの脳裏にエルダー種の可能性がよぎる。
(なんだなんだなんだなんだ!! なんだこいつは!!)
間合いに入った瞬間剣を振るう。
必中の感覚。
それが外れる。
躱される。
「ならば!!」
ブリジットの全身を黄金のオーラが包み込んだ。
「お、なんだ?」
魔力が見えないドドにもそれは見えた。
触れた木の葉が粉々に散り、地面の小石が弾けた。
「こういう使い方もあるのか。こりゃ参ったな。もう降参するから話をしないか? 文明人らしく」
「黙れ、オーク!!」
「……傷つくなぁ……」
森の闇を切り裂く閃光。響く轟音。
それはゴブリンの巣周辺を索敵していたリオンたちにも観測された。
「おい、今の……」
「戦闘音」
「かなり苦戦しているようだが」
いくら探しても見つからないマリアに焦っていたリオンはふと自身の思い違いに気が付いた。
「くくく、そういうことでしたか。どおりで探してもいないはずだ」
「どういうことだ?」
「ここはラブロンの森です。未確認の魔物がいてもおかしくない」
「まさか、エルダーゴブリンはそいつに?」
「くくく、ブリジットはそうとは知らず、その魔物を追って行ったのでしょう」
「なら、どうする?」
「決まってます。即追いましょう。上手くすれば邪魔なブリジットを排除し、未確認の魔物の討伐功績まで付いてきます」
仲間たちは笑みを浮かべた。
自分たちの功績のためにブリジットを殺す。
そのことに一切の迷いは無かった。
リオンたちは轍の跡を追った。
◇
「はぁ、はぁ、はぁ……何なんだ、このオークは」
肩で息をしながら、汗を流す仮面の冒険者ブリジット。
「その仮面とったらどうだ? 息しづらいだろう?」
「はぁ、黙れオーク!!」
「心配してるのに……」
眼前にはオークが無傷で佇む。
ブリジットが剣を振るう。
光のオーラが剣に集約され、放たれた。
ドドには当たらず、柵を粉砕した。
「ああ~ひどいな!! あ~あ~柵がボロボロだ!! 建てるの大変だったんだぞ!! あ~あ~!!」
(私の攻撃が当たらない……まさか予知・予測の魔術? いや……魔力を全く感じない。魔力隠蔽の術まで? そんな高度な魔術をオークが?)
これまでここまでの苦戦を強いられたことは無かった。
ブリジットの光魔法を駆使した斬撃はデーモンすら切り裂く。
そもそも躱せるスピードではない。
ブリジットは光魔法を剣に乗せ、放つ波状攻撃を繰り返した。しかし、ドドはそれを躱し続けた。
「人と話すときは仮面を外すべきだ。失礼だろう」
「オークが人を騙るな!!」
「ま、まぁ、そうなんだが……」
ドドにとって未知の攻撃だが、出だしは単純。斬る動作に合わせて飛んでくる。斬撃は光を放つため目視も容易。
機関銃の斉射を避けるより難易度は低い。
おまけにブリジットは息が上がり、呼吸からタイミングが筒抜けだった。
ブリジットは森を脱出するために温存していた魔力を使う覚悟をした。
「この一撃に全てを賭ける……!」
ブリジットは光魔法に当てていた魔力をすべて加速に回した。
ドドの予測・予知の上を行くためだ。
「―――うおっ!」
動きそのものはブリジットの方が早い。
あっという間に距離を詰めた。
常人なら目で追うことも敵わないスピード。
40ヤード走なら3秒台だ。
ブリジットの連撃が空を斬る。
「な!! これでも!!?」
「いや、初見ならやられていた」
(―――この動き、マリアと同じ。全く、感謝だな……彼女にこの恩を返すためにも、この娘にキチンと話をしなければ。それがおれの責任だ)
ドドは相手に特定の動き、狙いを誘導していた。
多くの武術に共通して存在する、後の先の技術、ドローイング。
振らせて、後の先を取る。
戦いの流れはドドが握っていた。
「このぉぉ!!」
連撃は止まらず。されど、当たらず。
まるで水か空気のようにゆらゆらと上体が揺蕩い、つかみどころも無く、その剣閃は届かない。
最後の力を振り絞り、上段から振り下ろす剣。
(よし、ここだ!! このタイミングで―――!!)
ドドはこの時を待っていた。
ブリジットを無傷で拘束する算段が脳内で瞬時に確立される。
真剣白刃取りからの手首を狙ったディスアーム。同時に足払いで体勢を崩して倒し、腕の関節を極めて押さえつける。
実際の戦闘において剣を掴むことはほぼ不可能。
掌で掴むよりもその間を剣が通過する方が10倍速いからだ。
それは飛んでいる針の孔に糸を通すぐらいの難しさ。
ドドはそれを実行した。
オーク離れした反射神経と神がかり的集中によるもの。
(な!? 掴まれ――)
ブリジットは完全に想定外の動きに虚を突かれた。
タイミングを完全に読まれていたからだ。
脳裏に死がよぎる。この体勢から逆転する術は無いと直感でわかった。
しかし次の瞬間、振り切った剣から肉体を斬った手ごたえが伝わってきた。
(―――斬った!?)
というより「斬れた」という意外感。
焦点が合うと、目の前に倒れたオーク。
その肩には矢が刺さっていた。
飛んできたと思われる方向に眼をやると、リオンたちがいた。
「危ないところでしたね、ブリジットさん?」
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