第78話 新たなステップ

「そんなバンド、うちらと当ててええんですか?」


 一瞬、戸惑いはしたものの加奈の一言で勢いが付いた。

 それもそのはず、今の俺たちは『ドリッパーズ』や『サカナ』を想定し進化して来た。今更次インディーズデビューするバンドと言われても臆する事はない。


「言うねぇ。少なくとも君達よりは経験を積んできたバンドだ、損はないと思うよ?」


 俺たちを全く知らない人がそう言ったのなら、対して気にもしなかっただろう。けれども西田さんは一度ライブを見ているし、不利になる様な事はしないはずだ。


 そしてリハーサルが始まる。トリはもちろんLIL NUTS。俺たちと同じガールズバンドの4人組だ。だが、『サカナ』の様なバンドかと思っていたが、正統派のポップなロックバンドの様な雰囲気で現れる。


 歳は高校生か大学生くらいだろうか?


 しっかりと作られた楽曲に、それぞれのパートが実力者揃いで何よりギターが二人という構成だ。確かにこれなら俺に対抗出来ると考えて来たのかも知れない。


 だが、以前の俺たちになら……だ。


「しっかり音源売って稼げよ?」

「あれ、リクソンさん?」

「別に俺がいるのはおかしくはないだろ?」

「まぁ、そうですけど……」

「しかし、西田のおっさんも災難だよな」

「災難?」

「お前ら、レコーディングの時のレベルでライブできる様になってんだろ?」

「……まぁ、そうですね」

「自信がみなぎっているからわかるぜ?」


 リクソンさんの言っている意味はよく分からなかったが、今回のライブでいい結果を残せそうだと思ってくれているのは分かった。


 そして俺たちのリハーサルが始まると、その理由がはっきりと理解せざる終えなかった。


「よろしくお願いします!」


 演奏を始めた途端、ライブ関係者しかいないはずのホールに人が集まって来る。今までにない感触に、心が躍り出していく。それから最後に、俺たちはあの新曲を演奏するとホールがどよめいていくのが分かった。


「なんかめちゃくちゃ反応ええんちゃう?」

「やっぱり新曲が良かったのかな?」


 リハーサルを終え、物販ブースの準備にはいる。以前とは違いTシャツやステッカーなど充実している。もちろん、音源のQRコードが付いたポップも立てると、下手なインディーズよりプロの雰囲気が漂っていた。


「すみません、hung out paty の人ですよね?」

「せやけど……ああ、LIL NUTSのボーカルさん?」

「はい……近くで見ると余計美人で、ベースなのにボーカルもされてて……」


 いやいや、俺もボーカルなんだけどね?


「グッズ買ってもいいですか? もちろん、音源もさっき購入しました」

「ほんまに? ありがとうさん!」


 加奈が何やら捕まり始めていると、西田さんが俺に話しかけて来た。


「一体何があったんだい?」

「何か気に入ってくれたみたいで……」

「そうじゃない、前回のライブからまだ二ヶ月も経っていないというのに、まるで別人じゃないか……」

「色々あったんです。レコーディングも経験出来ましたし」

「前回のライブが初めてだったというのは本当だったみたいだね。僕もまだまだバンドのポテンシャルを見れていないというわけか」


 その反応から、俺たちは西田さんの期待以上だったと思っても良いのだろうか。彼の表情には悔しさみたいな物はなくどこか諦めとも取れる笑顔を見せた。


 ライブはというと、結果的には大成功だった。ドリッパーズのライブの時ほど人はいなかったものの、用意していた物販の半分くらいが売れ、音源もそれなりにダウンロードしてくれているのが分かった。


 もちろん、メインのはずだったLIL NUTS以上にだ。


 だが、彼女達はそんな事を気にする様子は無く、むしろ新しいバンドに出会えたと言った清々しい笑顔をむけてくれていた。本来バンドとは敵同士ではなくこうあるべきなのだと俺は改めて教えてもらえた。


 結局、今回も打ち上げには出る事は出来ないのだが、それを分かっていたのか田中さんが終わってからライブハウスでビザを食べようと言ってくれ、小さな打ち上げが出来る事となった。


「うちらも早く打ち上げにいける様になりたいなぁ」

「あと四年は無理だな?」

「うちならバレへんて」

「あと二人が間違いなく身分証を求められるだろう」

「まぁ……確かに」


 この日対バンしたバンドは大学生くらいの年上ばっかりだったのだが、俺は都度自分の歳を忘れそうになる。チヤホヤされ上機嫌になっていた中、俺は大御所たちが座る席に着いてしまった。


「おいおい、調子に乗ってんじゃねぇぞぉ」

「いやいや、リクソンさん飲み過ぎですって」

「美女は大老に酒をついでこい!」

「それ今はナントカハラスメントでいかれますからね!」

「なんだよ、俺たちの仲だろ?」


 悪酔いの典型となったリクソンさんの向かいには田中さんと西田さんが座って苦笑いを浮かべている。


「まあまあ。ところでハンパテは今後どうするつもりなの? うちを拠点にしてくれるのも大歓迎だけど、やりたい事とかもあるんじゃない?」

「そうですね……まずはインディーズバンドを経験したいですかね?」

「という事は、メジャーも視野に入れているという事でいいのかな?」

「そうなるんですかね?」


 そう、俺の目標は三年後までに音楽で食べていける様にする事だ。その為には名前で飯が食える様にはなっておきたい。


「そういう事みたいだけど、西田くんはどうするの?」

「なんでまた西田さんに?」

「うーん……でも、中学生だからねぇ」


 その瞬間、なんとも言えない空気を感じる。ふと俺は目の前にいる人がインディーズレーベルの社長だという事を思い出してしまった。


「そうだ、夏休みに『サカナ』のサポートバンドとしてツアーをしてみないかい?」

「えっ、ツアーですか?」

「多少は泊まりもあるけど、基本的にはライブ毎で一泊して帰る形なら許可も取りやすいだろう?」


 願ってもいないチャンスだ。『サカナ』のツアーという事はつまり、全国の有名なバンド達とライブができる。新しい俺たちの実力を示す格好の機会になる。


「是非、参加させて頂きです!」



★★★

短い間でしたが、ありがとうございます。


第二章はこれで完結です。

近日中に続編もアップしていきますので今しばらくお待ちください!

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俺の音楽ここにあります! 竹野きの @takenoko_kinoko

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