第百三十三話 それフリですか?

「さて、仕事は果たした。我らは用無しじゃ」

 と七郎さんの肩を叩き、晴れやかに笑った。


――あれから二ヶ月が過ぎ。

 

 季節は真夏を迎え汗が頬を伝う。

 それでも城下の様子を見ておきたいと、あちこちからカンカンと響く復興の金槌を打つ音を聴きながら、歩いている。

 

 真昼すぎの最も暑い時間にかかわらず、建材を運ぶ人足や足場を組む職人の声で中々に騒々しい。

 

「日の本とはだいぶ(建築の)様子が違うのぉ」

 と職人たちが次々とレンガ壁を積み上げていく様を楽しんでいる。


「それにしてもずいぶん早く復旧しそうですな」

 と七郎さん。


「都民のほとんどが疎開していたからの。人が死なねば復興も早い」

 なにより、とあたりを見回し伸びをすると

 

「希望が彼らを後押ししておる。命を張った甲斐があったというもんじゃ」

 と清々すがすがしい笑いを浮かべた。


 あれから『ラの国』との交渉がまとまり、ラ軍は去っていった。

 

『今に万の軍勢が『ラの国』から来るぞ』

 と、強気なニジャール皇女の予言は見事に外れ、大量の金品と引き換えに彼女もあっさり戻された。

 

 これ以上損害を出されては釣り合わない、と判断されたのだろう。


 それでもラの国の使者が読み上げる親書が


『宗国(親分の国)が大妖ハデスの出現により、多大なる被害を被った従属国(子分の国)へ見舞金を送る』

 ってなってたから、どんだけ鉄面皮なあつかましいんだって笑えたけど。


 ちなみに開戦理由の

『ラの国の人民の保護とクーデター政権の悪政からアの国を解放する』ってところは、

 

『大妖ハデスの脅威に見舞われた従属国を、宗国として救済するために派兵した』とすり替わっていて。

 

『ラ軍の支援により、大妖ハデスを封じ悲劇は終わった』んだそうで。

 

 だから今後は

『復興を支援し、この悲劇を乗り越え両国が輝かしい未来に向けて歩む』

 んだそうだ。


 当然、ふざけるなって一悶着あって

『“アの国”の主権を尊重し、共に輝かしい未来に向けて相互恵の関係を発展させる』

 と平和条約を締結する形で落ち着いたけど。

 

“ラの国”で歴史が歪んで伝わること間違いなし(笑)


――その資金を使って、竜宮城と被災地の復旧が急ピッチで進んでいた。


 とはいえ、たかが二ヶ月で元通りになるわけもなく、簡易な仮庁舎と乙姫たちの仮住まいが、王族のまつられたびょうのそばに建てられていた。

 そのびょうを囲むように天幕が張られている。


 ついにオレたちが帰還する日が来たってわけだ。


 廟を囲む天幕をかき分けて入ると、侍女たちがしめ縄を施した大岩の前に祭壇が設けられ、その前に赤い敷布で覆われた儀式のスペースが出来上がっていた。


 ドォ――ンッと太鼓の音が響き、シャラシャラシャラーーンッと神楽鈴がかき鳴らされる。

 

 王家の廟を背に、太郎さんが飾太刀かざりたちを両手に捧げ持って、シズシズと進み出て


「これより通天の儀式をとり行う。一堂、拝礼――っ」

 と厳かに宣言する。

 

 太郎さんはこのまま竜宮城に残るんだそうだ。

 乙姫もシズ姫も、クロウさんに残って欲しかったようだが、


「ワシには平家打倒の大願があるゆえに――」

 と、残留を断り帰還することになった。


「クロウ様は“アの国”の恩人です。何かあれば、いつでもご相談を」

 と乙姫。

 泣きそうな顔を袖で隠しながら「ご武運を……」と告げ「必ずやまたお会いしとうございます」とシズ姫。


「お礼にこれを」

 と、差し出してきた箱。


「玉手箱だの……」

 

 それ、フリですか?

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