第百二十八話 どれくらい残ってる?

「あとどれくらい(弾薬は)残っておる?」


「じ、潤沢にございます――」

 と目を逸らす。


 嘘だ――叱責しっせきを畏れて場あたりの嘘をついている。

 ここに出てきたおのれの愚かさよ、と唇を噛み締めたとき、カコンッと装甲に何かが当たる音がした。


「ぬ?」

 とニジャールの眉間に皺がよる。

 不安と怯えの色を出してはならない、と極力口調に気をつけながら、さりげなく砲弾を管理する装填手兵を振り返ると


「山の様子はどうじゃ? 女王オトワニ確保の狼煙は上がっておらぬか?」


 と外の様子をのぞかせてみる。


 双眼鏡を片手に砲塔のハッチを押し上げると、銃座を脚立がわりに上体を外に出した。

 途端に「ゴフッ」と転げ落ちてくる。


「敵襲――っ」

 と砲手兵が警告を発しながら、それを押しのけ砲塔のハッチを閉じた。

 すぐさまブォンッとエンジンの回転数が上がると発電機ダイナモの出力が上がり、砲塔がギリギリと回転していく。


「何が起こった?」


 ブルリと身震いが襲う。

 襲撃に備えて仕込んだブービートラップも、謎の爆発を繰り返し無効化された。

 

「なぜだ?」

 なぜ銃もロクな兵器も持たぬ蛮族に、近代兵器に身を固めている我らが追い込まれる?


 足元に転がる装填手そうてんしゅを観察すると、胸がわずかに上下して息があるのがわかる。気絶しているだけか、と安堵してミリタリーヘルメットを外してやると、それがまるで鈍器に殴られたように変化している。


 これが波動なのか?

 これをどう対処する?


 何も妙案の浮かばぬまま、オトワニ女王確保の狼煙が上がるのを祈るしかなかった。


――――少し時間をさかのぼり戦車の外で。

 

『隠遁』で、陽炎のような空気のゆらめきにしか見えないア軍の近衛隊が、ラ軍に襲いかかっていた。


「ぐわっ」

「ぬぁぁ――っ」


 あちこちで悲鳴が巻き起こり、見えぬ敵にラ軍は悲鳴の上がる方へめくら打ちするしかない。


 何もないはずの空間から、いきなり石礫が飛んできたかと思えば剣が襲ってくるのだ。気配と音だけでは対処しようがない。


 それでもニジャール皇女の乗る戦車だけは、とラ軍の兵士たちは戦車を囲う。

 この上戦車が敵に取られてしまえば、最悪の事態になる。それゆえに多少の犠牲はやむを得ぬ、となってしまった。


 やがてブービートラップを誤爆させ、誤射を誘発させ続けたクロウさんの、待ちに待った瞬間が訪れた。

 

 ラ軍の兵士が次々と倒れ始める。

 だいたいの有り様が「ぐわっ」と上がる悲鳴に向けて引き金をひく。


 カチリ。と空打ちの音に驚き

 

「?!……」

 響かぬ銃声に、慌ててコックのボルトハンドルを起こすが、装填されているはずの弾丸たまがない。

 

 弾丸たま切れ?


 とすぐに長銃を手放し、ガンベルトのホルスターから短筒を抜くも敵がいない。

 

 誰かが

 そう思った時には、首から血を吹き出し地面に叩きつけられている。

 そんな戦闘があちこちで繰り広げられていた。


 

「今ぞっ」


 とクロウさん。

 そろりと戦車の砲塔にはいあがって、ハッチに手をかける。


「ぬ……開け方がわからぬ。いかな工夫で鉄のフタを閉めておるのかの?」


 と繁々と眺めてハッチの構造を読み取ろうとするのだが。

 

 ええい、ままよっとクロウさん、シコロの柄でカコンッとハッチを叩いてみた。

 このままこじり開けられないか強度を試したようだ。


「やはり無理だの」


 と肩を落とした時、ハッチが開いて男が顔を突き出した。


「あ?!」

「え!?」


 と固まる双方。

 あっという間に、クロウさんが手にしたシコロで殴り飛ばしていた。

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