第百二十七話 投石の果てに

「そぉれ、皆の衆っ。一人で何個当てられるか競争じゃ」


 またも極めて原始的な戦術と、近代兵器の奇妙な戦いが始まった。


――――ドォンッという破裂音と、そこへ集中する銃声。


 一つはオレたちが投石で巻き起こす誤爆と、一つはそこらへ『隠遁』しているであろう、とのラ軍の集中射撃めくらうち


「それ、次はアレじゃ」

 

 と放るのだが、石礫は拳大で波動で身体強化していても、トラップの杭や樹木に当てるとなるとなかなか当たらない。


「ぬぅ、もどかしいのぉ」


 ふぃ、と息をつくとまた拳大の石礫を集めに走る。

 五、六個を足元へ転がし再び波動を流し始めたクロウさんに「ちょっと待って」と声をかけた。


『なんぞ?』

 腰に挟んでいた手拭いを引き出すと、顔についた汗と埃りを拭った。

 

『それを使う』

『ぬ? この手拭いをかの?』


『投石器だよ』

『おう、印字打ちがあったか』

 

 日本にも投石器は弥生時代からあったとされる。

 有名なのは武田信玄の投石部隊だが、記録が残されているから有名なだけで、合戦場には普通にあったらしい。


 クロウさんも心得はあったようだが、主に雑兵のやる技だったから考えから抜け落ちていたようだ。


 まず手拭いの端っこを結びます。

 中央に石を入れます、ハイ終わり。

 あっという間に投石器の出来上がりだ。それをグルグル回して頃合いで、結んでない方の手拭いの端を放すととんでもないスピードで飛んでいく。


 なかなかコントロールが難しいけれど、四、五回投げたらコツを掴んだようだ。


「それぃ!」


 ブルゥと手拭いが鳴って石が放たれていく。

 カンッと杭に当たるとドォンッと爆発が起こり、そこへ銃撃が襲いかかってくる。


 近衛隊の人たちも見よう見まねで投石器を作り、投げ始めると身体強化も加わって、四百メートル以上飛ばす強者も現れた。

 

 あらかた杭を倒し終わると、反対側へ移動。

 同じ要領でブービートラップの破壊を繰り返すと、さすがに相手も不審に思ったようだ。

 爆発が起こっても、銃撃も砲撃も起こらなくなってくる。


「そろそろ弾丸たまが心許なくなってきたんであろ」


 クロウさんがニヤリと笑う。

 試しに、と再び『検知』を発動させると、白く浮かび上がるピアノ線の先の樹木へ投石した。

 ドォンッと上がるオレンジ色の炎。

 

 しかし追撃の銃声は響かなかった。

 かわりに投げ込まれるのは手榴弾で、より広域に敵をあぶり出すために切り替えたのは明白だ。


「ワシは戦車の気を引くゆえに、周りの雑魚どもを一人一人ゆっくり削ってたも」


 と言い残すと、ソロソロと戦車へちかずいて行った。


――――戦車の中で。

 ここからはニジャール皇女の目線になります。


「馬鹿ものっ、残りの弾薬を考えぬかっ。あと二刻(四時間)は女王オトワニの確保にかかると思えっ。それまで無駄弾を控えよっ」


 戦車のハッチから顔を出すと叱責する。

 あれだけ弾丸たまをばら撒いて、敵の攻撃がやまぬのは見当違いに撃っているか、大勢の敵に囲まれているかいずれかだ。


「「「ははっ」」」


 畏怖に耐えぬと返事は良いが、軍人プロがそれくらいわからぬはずがない。おそらくこれまでの過剰な銃撃は、奮闘しているアピールに過ぎなかったのであろう。


「あとどれくらい(弾薬は)残っておる?」


「じ、潤沢にございます――」

 と目を逸らす砲手。


 嘘だ――叱責を畏れて場あたりの嘘をついている。

 ここに出てきた愚かさよ、と唇を噛み締めたとき、カコンッと装甲に何かが当たる音がした。

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