第百二十六話 ブービートラップ

「思うた通りじゃ、あの狭い鉄箱戦車の中にずっとおられるはずがない。良いかの? アレが動く前に神速で制圧する」


 腕をグルリと回すと『隠遁』の波動で、風景に溶け込んでいった。

 

 戦車のとなりに天幕が張られ、少し離れたところに兵士の野営地がある。

 その周りを瓦礫のバリケードが取り囲み、ちょっとした拠点になっていた。

 

 すでに昨日からの雨は止んでいたが、あちこちから焚き火の煙な上がるのをみてクロウさん。

 

「あのニジャールとかいう女、戦をわかっておるわい」

 と嫌な顔をした。


 かじかんだ手では銃をうまく扱えない。

 雨で冷え切った手足を暖めて、戦に備えるところなんかよくわかっている証拠だ。


 あと四百メートルくらいに近づいた時、左手からドォォォンッと火柱が上がり、近衛兵の一人が吹き飛んだ。

 そこへタンタンタンッと銃撃が襲ってくる。

 飛び退いたあとに着弾痕がき立ち地をえぐった。


「ぬ?!」


 よく見るとピアノ線のようなものが張られている。その先にぶら下がっているのは、おそらく手榴弾みたいなものだろう。


『しまったっ、ブービートラップだ』

 

 機銃があり、戦車があるならば手榴弾だって実用化していてもおかしくない。その手榴弾を使ったトラップがあちこちに仕掛けてある。

 

『何ごと?!』

 

『クロウさん、罠だよ。細い鉄線に触れると爆発する罠だ。鉄線をイメージして『検知』してみて』


『鉄線……』と意識すると、白と黒が逆転した世界に切り替わりピアノ線? があちこちに張り巡らせてあるのが、白く浮き出て見える。


『切れぬかの?』

『工具がいる。刀じゃ切った衝撃でドカンッさ』 


「ぬぅ……敵将を目前にして手が出せぬとはの」

 歯噛はがみして戦車を睨みつけている。


 天幕から人影が動き戦車に乗り込むと、ブルルンッとエンジンが起動し始めた。


「あぁ……乗り込んでしもうたぁ」

 と情けない顔のクロウさん(泣)

 

 と、戦車がこちらに砲塔を回転させると、ドォォォンッと地を揺らしオレンジ色の炎を吐き出した。

 とっさに地に伏せると、頭上をヒュウ――ンッと擦過音が通り過ぎて、ずいぶん向こうで火柱が上がる。


「皆の衆、怪我はっ?」

 と周囲にいるであろう近衛隊に声をかけると

「何人かやられた、一旦引くぞ」

 と気配が遠ざかっていく。

 

『クロウさんも引いた方が良い。こんなに罠だらけじゃ無理だ』


「いや、やり方一つで勝てるワイ」

 と足元の石を拾い波動を全身に循環させていく。


「フンッ」


 と気合いとともに、百メートルくらい先に投げつけた。


 あ、外した……


「ぬぅ、なかなか難しいのぉ。もそっと右を狙って……」

 と放ること約五投目。


 カーーンッと乾いた音を立てて杭に命中すると、ドォンッと爆発した。その爆炎に向けて巻き起こる銃声と、戦車の砲撃。


「こんな罠であぶり出しに来るとはの。じゃが誤爆させてやれば、侵入できる」


 うむ、出来るぞ、と林に駆け込むと、

「近衛衆っ、今のを見ておったかの?」と誤爆した跡を指差す。


「あれはくくり罠と同じゃ。投石で徹底的に誤爆させてやるのじゃ」


 と地面が露出しているところにササッと戦況図を描く。


「あちら側が終わったら向こう側へ移動し、ここらを誤爆させる。そのうち罠が無くなればこちらが仕掛ける番じゃ」


 とニマニマ笑いながら、拳大の石を拾って

「そぉれ、皆の衆っ。一人で何個当てられるか競争じゃ」

 と駆け出した。


 またも極めて原始的な戦術と、近代兵器の奇妙な戦いが始まった。

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