第百二十四話 合流

『隠遁』を重ねがけして、こっそり番所の跡まで移動すると。

 見事に瓦礫に変わった跡地に七郎さんが困った笑顔でつえにもたれていた。


「無茶が過ぎますぞ」

 とやれやれと肩をすくめる。


「移動じゃ、傷が痛むであろうが『隠遁』はできるであろうの?」

 

「なんのこれしき」

 と強めに縛った足をさする。


「と、言いたいところですが、このまま同行しても足手まといになるだけでござる。

 拙者を打ち捨てて、若は山中の後続と合流を」

 

 と山道を指差し、愛刀「岩融いわとおし」を引き寄せた。


「なぁに、敵の五、六人は道連れにしてやりますとも」

 とニヤリと笑って見せるが、その強がりが胸に刺さる。


「七郎を見捨てたら、ワシは自分に見捨てられるわい……馬鹿を申すな」

 と肩をどついて再び

「『隠遁』は使えるのであろうの?」

 と念を押す。

 

 七郎さんは複雑な顔だ。

「されど、この体では山中を進むのは……」


「何を言うておる? 向かうのは丘じゃ、敵をすり抜け後方の丘へ避難する」

 と七郎さんの指差した反対側の丘を指差す。


「へ?」


「おそらくじゃが、ワルレー軍卿は山中に敵を引き込みたいはずじゃ、ゆえに主戦場は山中になる。

 あそこへは戦車は入れぬからの」


 さすれば戦車はここに残ることになる、と、ココねと地面をさす。


「一旦丘へ避難するが敵が山中に入り次第、戦車を狙う」


「「は?」」


 オレと七郎さんの声が被ってしまった。


「いやだから、丘に登って敵をやり過ごしての? 「いやいやいや」……」


 まだ戦車諦めてなかったんだ!?


「いくらなんでもアレには敵将が乗ってござったろう? 護衛は残しておくものでござる」

 と、アメリカンな身振りでアワアワしている。


「拙者もこの有様。敵が少数になるとしても、若一人であの鉄の化け物にはかないませぬ」

 と、戦車を指差してずいぶんそれが近づいているのに気づいた。


「さ、早う避難を」


 とクロウさんをかばうように、前に出て痛むであろう足を引きずりながら、愛刀「岩融いわとおし」を引き抜いた。


「拙者が時間を稼ぎますゆえに」

 と胸を張り、広い背中を見せてくれる。


「誰が一人と言うた?」


 ん? と七郎さんは首だけこちらへ。


「誰が一人と言うたのじゃ?」


「誰と言われましても、若とここにおる殿しんがりしかおりますまい。その殿しんがりもたった今、山道へ向かうようですぞ」


『隠遁』のせいで姿は見えないが、ピチャピチャという足音と、跳ねあがるドロがその動きを教えてくれる。


「まぁ良いからついて参れ」


 と『隠遁』をかけて、そろりそろりと敵を迂回し始めた。


――丘に辿たどり着いてみると。


 そこには意外な面々が顔をそろえていた。


「クロウさまっ」


 と菅笠すげがさ(時代劇に出てくるあの雨具ね)とミノをまとったシズ姫が駆け寄ってくる。


「よくぞご無事で」

 と同じく菅笠すげがさとミノをまとった太郎さんの姿も。


 樹木にロープを渡した簡易なタープに、伏せっている乙姫と近衛隊の姿があった。


「クロウ殿たちが討って出てくれたおかげで、我らのいた関所への攻撃が緩んだのです。そのすきに、とワルレー軍卿がこちらへ逃してくれました」

 と太郎さん。


「ワルレー軍卿は山中へ敵を引き込み、後続に合流しだい殲滅戦に入ると――」


「で、あろう? これは我ら日の本でも使う『釣り野伏せ』という戦術じゃ」


 と七郎さんを雨の凌げるタープにまで連れていきながら


 「ゆえに戦車は取れる」

 と少し得意げに笑った。


 なんでだ?

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