第百十七話 反撃の乱戦

「み、港から敵襲――っ」

 と叫ぶラ軍の兵士たちが駆けてきた。

 きっとそれは後方の敵を、こちらに追い込む作戦が成功したからで。

 

「今じゃ!」

 と、鏑矢かぶらやを空に放った。ピューと舞い上がるそれは、伏せていた伏兵への合図。


 思うんだけど敵は密集してしまうわけで。

 それは火力も密集することになり、絶対絶命からワンランクアップの決死、になるのは当然のではないのかと。


 パンパンッ、ビューンッ、と銃撃が凄いことになっていきて。


(うわぁぁ――っ!)←オレ

(きよったぞ! はまりおったわ)←クロウさん

 

 なにこれ、怖いって! 涙目なんですけどぉ!?


「波動……『隠遁』」


 クロウさん、目をつけていた岩陰に走り込んだ。嫌な声も強化された聴覚が伝えてくれる。


「……敵は目前っ……三分隊、山狩して……よ」

 きっと……の部分は殲滅とか、追い込みとか、蜂の巣とか物騒なものだろうけど。


 オゥフ……もう時限爆弾のカウントダウンが始まった絵面しか思いつかない。

 どうするの? コレ……なんて思っていると。


 ドォォォンッ、と爆音が上がった。

 銃撃も砲撃も途切れたから、身を潜ませたまま視界のきく木立ちまでそろそろと移動してみる。


 敵が編成できないくらい密集している真ん中へ、焙烙玉ほうらくだまが投げ込まれたみたいだ。


「て、敵は焙烙玉ほうらくだまを持っているぞ、距離を取れっ」


 とか指示が出ているけど、山中へつながる道は両脇が樹木で覆われていて、自然、隊列を分解して個別に樹木の影へ避難していく。

 そこへ空いた空間に港から駆け込んだ一団が入り込んで、密集は解けないどころか混乱に拍車がかかっている。


「次は矢じゃ」

 とクロウさんが鏑矢かぶらやを空に放つと、狼狽えるラ軍へ夕立ちのように矢が襲いかかった。


「ガッ?!」

「な、なんだ?!」

「ぐぅっ!」


 悲鳴が巻き起こり、混乱している“ラ軍”の皆様。


「今じゃっ、かかれっ皆の衆っ」


 とクロウさんの大音声が響き渡る。


「「「ウォォ――ッ」」」


 と山に反響するときの声に、ラ軍はパニックに陥った。

 冷静な判断ができなくなると、人は我が身一人の安全をまずは図ろうとする。それをさせないためにラ軍の指揮官は声を張り上げた。


「鎮まれっ、敵の罠だっ。小隊ごとにまとまって、敵の射線へ撃ち……」


 と指示する指揮官は“ア軍”の格好の的になった。

 ヒョウと一閃の矢が突き刺さる。


「グボッ!」


 と倒れ込む士官らしき人と、身を挺して守ろうとした兵士たちの影が倒れていくのが見える。

 

「今なら戦車も身動きが取れぬであろ。これだけ密集していれば『検知』も無理じゃ! 行くぞ七郎っ」


「承知っ」


 声をかけ合い丘を駆け降りた。


「「波動……『隠遁』」」


 たちまち姿がおぼろになっていく。

 再び鏑矢かぶらやをつがえ天に放つクロウさん。

 ピューと鳴り響く音に、あちこちから剣を抜きア軍の軍服がカーキ色のラ軍へ襲いかかる姿が見えた。

 乱戦だ。


「戦車はどこじゃ、戦車は? 七郎っ」

 

“ラ軍”の兵士は屈強で、クロウさんより一回り大きい。近寄れば近づくほど、人垣で戦車が見えなくなる。


 七郎さん(弁慶)はこの時代の人としては大柄だから、少し伸び上がるだけで、戦車が見えたようだ。


「あちらに。二間にけん(約3.6メートル)も離れておりませぬ」


「一気に行くぞっ」

 と駆け出そうとした時、戦車の砲塔のハッチが押し開かれた。中から白銀のフルプレートが上体を出して檄を飛ばした。


「鎮まれっ、敵は少数じゃ! 一人ずつ葬り去れっ」

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