第百十四話 現実にあって欲しくなかったものが欲しくなったらしいクロウさん

「なん……?!」


 と伺い見る眼下には想像していたが、現実にあって欲しくないものが到着していた。

 

 戦車だ。

 第一次世界に登場した陸の悪魔。

 小銃程度ならビクともせず、原爆の実験ですら破壊されずに、改めてその強固な防御力を見直された兵器。


 バルチック艦隊クラスを保有する“ラの国”なら、あっても不思議ではない、と想像していた。



『そんなにヤバイ? ……の、かの?』

 知らぬが仏のクロウさんだよ。

 

『まず“アの国”の兵器では歯が立たない』


『あの鉄の牛車程度、燃やせば良かろう?』


 鉄の牛車とクロウさんは言うけれど“ラの国”の戦車は、ずいぶん現代の戦車とは違う見た目で、こちら(丘の中腹)から見れば四角錐の底面がキャタピラで、頂点が砲台といったフォルムだ。

 だが、鉄で覆われている動く要塞ってところは同じなわけで。

 

 こっちは平安末期の科学力で、向こうは戦車だよ?

 

 弓矢と刀でどぅせいって言うんだ。

 

『燃えないんだよ。鉄に覆われて銃でも貫けないし、燃えないように加工してある。アレは落とし穴くらいしか……』


 焙烙火矢ほうらくひやだろうが、焙烙玉ほうらくだまだろうが、その装甲を貫くことはできないだろう。

 

『弱点はないのかえ?』


『弱点がないわけじゃない。少しでも軽くするために、弾に当たりやすい前面が装甲が一番厚く、弾が当たりにくい底や背面うしろ、上部は比較的薄くなっている――らしいよ』


 ってタンクゲームの解説に出ていた。


「ふぅ〜ん……」


 とクロウさんは鼻を鳴らし、じっと見ている。

 

 なんだよ。また落ち系するつもりじゃないだろうな?

 嫌な予感しかしないんですけど。


 とか思って、マッチ箱くらいに見える戦車を遠目で見ていると、指揮官らしき人がハッチから上半身を出して現場にいた士官と話をしている。


 あ、カトーが出てきた。こちらを指差している。

 あいつどこまで『検知』できるんだ? こちらの位置まで把握してやがる。


 ――と。


 キリキリと砲台がこちらを向くじゃないですか。


「逃げよ」


 咄嗟に叫んで地を蹴った。

 ヒューンと擦過音がしたかと思うと、閃光がきらめき体ごと爆風で持っていかれる。

 飛び退いたあたりに着弾し、隠れていた木立が吹き飛んでいた。


「ふぁぁ、危なかったのぅ」


 し、死ぬとこだったぁ!

 波動で身体強化してなきゃ、いまごろ重体で死屍しかばね一歩手前になっている。


 怪我人がないことを確認すると、皆の衆こっちじゃ、と『隠遁』をかけて少し離れた木立にまで移動した。


「皆の衆、アレはいかん。だから――」

 どこそこまで撤退する、と言うと思ってそば耳を立てていると。


「アレを奪うのじゃ」

 目をキラッキラさせてぶっ込んだ。

 

「ば、馬鹿を言うな」

 

 こぞって気が触れたのか? と非難轟々ひなんごうごう

 うん、オレもそう思うよ。


「アレだけ覆われておれば視界は悪かろう。まして『隠遁』をかけておれば見えぬ」


「しかし敵にはカトーがおります。これだけ離れていても『検知』で探り当てる男。立ちどころに露見するでしょう」


「『隠遁』で近づいて、四方八方から攻めれば『検知』が間に合わぬであろ? その間に、アヤツを奪うのじゃ。破壊が無理なら乗っ取るしかあるまい」


 おふ……知らぬが仏のクロウさんは『知は力なり』じゃなくて『力こそパワー』な人だった。

 アホだ、絶対この人アホだ。


「そうせねば乙姫たちにアレが向かう、と思わんかの? 皆の衆?」

 と告げて。


「王を取られれば、この国は終わる」


 どうするのかの? とクロウさんが皆の顔を見回した。

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