第百十二話 反撃じゃ

 再びタンッ、タ――ンッと後ろから銃声が響いた。

 やっと山道入り口の関所まで逃げてこられたかと思えばこれだ。

 追手はおそらく二、三百はいるはず。

 しかも銃を持っている。


 こちらは波動は使えるが、遠距離武器は弓矢のみ。

 後続に二千の軍団がこちらに向かっているが、昨夜からの雨で山中の進軍が遅れ、いまだにどこまで来ているかもわからない。


 せめて、味方と連絡が取れれば――こんな時にスマホがあれば一発なんだけどなぁ。


 この時代の、特に“ア”の国の通信レベルなんて、狼煙や法螺貝やドラ。

 地球の紀元前からのレベルと大して変わらない。

 もう情けなくって涙が出らぁ……。


 タンッ、タ――ンッと銃声が上がり、瓦礫や関所の残骸に身を隠した。


「波動……『隠遁』」


 あちこちで詠唱が始まり、姿がおぼろになっていく。


 銃の最大の欠点は目視できる相手でなくては、攻撃できないところだ。当たり前だけど。

 もっとも現代社会のような、暗視スコープやレーダーがあれば別だが、夜の間は“ラの国”の軍は戦闘を控えていたから、それはまだ実用化できていないに違いない。

 

 これをポールさんはこの波動『隠遁』を最大限に活用して、ゲリラ戦で“ラの国”に対抗しようとしていた。


「シズ姫、しばらくここに隠れていてたも」

 と波動『検知』を発揮して、乙姫と太郎さんの側まで連れていく。


「太郎殿、乙姫とシズ姫を頼みます。ワシは七郎と討ってでる」


「危険です。クロウ殿、そのうちに後続と合流できますから、あなたもここにいては……?」


 太郎さんが気遣ってくれるのはわかる。

 だが、“ラの国”の科学レベルと、軍艦を見た時に嫌な予感があった。

 こちらが波動『隠遁』を使えることなど、軍の侵攻が始まる前にとっくに伝わっているはずだ。

 

 ニジャール皇女があっさり引き上げた理由、二千の軍団が後続で近づいているのに関わらず、強引に乙姫たちを確保しに来たこと。

 

「嫌な予感がするのじゃ、先に手を打っておかねば取り返しのつかないことになる」


「ですが……」

 先んじる者は敵を制すであろ? と、思い止まらそうと言い募る太郎さんを制した。


「七郎、敵の背後に回り込み攻撃を分散させる。ワルレー殿にも進言するからついて参れっ」


「はっ」


 いつのまにか七郎さんがオレたちの後ろに控えていた。

『隠遁』を発揮してたから気づかないのは当たり前か。


「さ、急ぎ」


 と走っていく。


――――ワルレー軍卿の許可がおりて。

 

 部隊を二十人ほど割いてもらい、弓矢を借り受けたオレたちは『隠遁』をかけながら、“ラの国”の軍を迂回し後ろへ回り込もうとしている。

 前がかりになっている今なら、十分に背後を取れるはずだ。


『隠遁』で潜みちらほら生えている立木に身を隠しながら進むと、横一列に並んで盛んに銃撃を繰り返す部隊の後ろへでた。


 クロウさんが小声で部隊に指示を出す。

「皆の衆、後ろから矢を射掛け逃げるぞぃ。射掛けては逃げ、逃げては射掛ける。一かけしたから、次は……」

 とあたりを見回し“ラの国”の部隊の奥にある小高い丘を指差す。


「あそこの小高い丘まで引く。目的は敵の分断じゃぞ、良いかな?」


 一同がうなずくのを確認すると、

「では、皆の衆――」

 とからげた弓を構えヒョウと放つ。


「反撃じゃ」

 

 低く鋭いげきに“アの国”の戦士たちは、一斉に矢を放った。

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