第百二話 は……ははっ、やったのか?
「いかんっ、結界が持たない。どうする? クロウ殿」
それは撤退するか? の合図。まだこの時点までは逃げる事ができた。
七郎さんと太郎さんが支えている結界が揺らぎ始めた。
「これ以上は……」
保たぬぞ、と太郎さんが言いかけたとき、クロウさんが
「今ぞ!」と声を上げた。
「外魂の玉を出せっ、さっき投げ損なった全部じゃ」
早う早う、と手で
結界を支えるやら波動で風をふせぐやら、七郎さんも太郎さんも近衛隊の人たちも
七郎さんは袖を噛み破り縫い付けていた袋から、太郎さんは腰袋から、それぞれ取り出しクロウさんに渡す。
「シズ姫ッ、今じゃ、祈りをこの“外魂の玉”へ」
「へ?」
「この世に安寧と命を繋ぐ祈りを注ぐのじゃ」
とクロウさん。
何が今なのか、どこが好機なのか?
なんの祈りなのか?
その場の一同もわからないから、シズ姫には何ひとつ理解できないわけで。
どういうことなの? と困っている。
「人面の妖は全てを呑み込まんと大口を開けておる。今ならなんでも吸い込むじゃろ? “外魂の玉”を放り込む絶好の機会が、今じゃ」
わかるかの? とクロウさん。
なんだか勢いに負けてシズ姫がコクコクと頷いている。
「でも世界の
何を祈って良いのか、と首をフルフルと振った。
「ええいっ、
それが、と続ける。
「
そう言われてしまえば
フサの上に集められた“外魂の玉”を額に当てて念じ始める。
好きなもの、好きなもの――まずはお母様、そして杏の実(チョッピリ甘いから)、パパ(優しいから)、そしてそして……クロウさま。
最後の方は胸の奥がキュとなる。
そして――なにより大好きなもの。
“アの国”の人たちと、大地と風と綺麗な海と……この国の全部。
“外魂の玉”に念がスッと通ったのがわかる。
手にした神楽鈴をシャラシャラしゃらーんっとかき鳴らした。
「
不思議なことが起こった。
“外魂の玉”の上、ほぼ三十センチくらいの何もないはずの中空から金粉が舞い降りる。
水平線を紅に染めて沈む夕陽を受けて、それは一層キラキラと輝きながら“外魂の玉”へ降り注いだ。
「
額に押し当て空に放つように放ると、金色に変わった“外魂の玉”は大妖ハデスの
シュウッと口の中に吸い込まれていくと、人面の口が閉じて見えなくなる。
『もがッ』
人面の目玉がギョロリと裏返り、口がパカリと開いた。
そこから灰色の煙が吹き出し、目と言わず鼻と言わず煙がどんどん吹き出してくる。
「なんだ?!」
と目を剥くと。
『ぐぇぇぇぇ――っ』
最後まで現世に残ろうと足掻いていた大妖ハデスの残滓は、奇怪な悲鳴をあげ黒い霧となって黒い水晶に呑み込まれていった。
残されたのは吹き抜ける浜風の音と、岸壁に打ち寄せる波の音だけ。
「は……ははっ、やったのか?」
近衛隊の一人がへたり込んでつぶやいた。
「ああっ!?」
オレは思わずソイツを
こいつフラグを立てやがった。
――――それは案の定。
「ご苦労だった。武器を捨てて地に伏せよ」
と
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