第七十一話 地雷との遭遇

「敵がいない……」


 中隊長の頬を冷たい汗が伝った。


――――周辺を調査したところ。


 街道を迂回し周辺を探索させても、敵は人っこ一人いなかった。

 先ほどの爆発が敵の攻撃によるものなのか、なにかの罠なのか? 罠だとすれば慎重に行動する必要がある。

 

 それが『未知の兵器の爆発』なのが判明したのは、二時間あまり経ったとき。

 

『爆発したところを見ると火薬が使われたのであろう』と結論づけて、その扱いの専門家である砲兵に、あたりを慎重に調査させてみると。


「街道に砂が撒かれた不審な場所があります」


 と報告が上がってきた。

 試しに盾を並べて土嚢を投げ込むと、ドォォォンっと火柱が地面から立ち上がる。


「うわっ」

「ぐぉっ」


 爆風とともに吹き飛ばされた盾と、晒された体に飛び散った砂利を浴びて、負傷した兵がうめき声をあげる。


「地雷……か」


 地面から湧き上がる雷音。

 奇しくも中隊長のつぶいた名前が、この世界に初めて登場した非人道的兵器、地雷の名前となった。


 この世界にも火薬があり銃がある。

 “ラの国”は槍や弓矢しかないこの世界で、火薬と銃を開発したから圧倒的に戦場を支配できた。

 だからこんなものを考える必要がなかったのだ。


「捕虜もとらず、鹵獲ろかく(敵の持ち物を奪うこと)もするつもりもない――か」


 これは敵が後を考えていない――というメッセージだ。

 

「決死の戦いを挑んできたか……全くもって」


 嫌な相手だ、とまだ見ぬ敵を睨むように中空を見上げた。


――――場面は変わって。

 ここからはオレ(中村蔵人です)の目線になります。


 王都エテルネルは城壁に囲まれている。

 

 高さはおおよそ四メートルほどで、城壁の上は幅が三メートルほどの通路が走っている。

 季節は七月に入り、“ラの国侵攻”という物騒な状況と関係なくその通路へ、初夏の爽やかな風が吹き抜けていた。

 時刻は午前九時ごろ。


 その通路へ登る階段が、各城門のの中にある。


 その階段をご機嫌で登る少年。

 本人は「元服を済ませたからワシは立派な大人じゃ」

 と言い張っているのだが、こういう軍事施設高いところ大きいのが大好きで。


「もうすぐ敵が来るのじゃ、敵のおこりを見逃すならば初手を誤るであろ? 即応するために見てくるのじゃ」


 と、近衛兵や七郎さんが止めるのも聞かず、城壁の上にやって来ている。

 一応、護衛の七郎さんと、近衛兵でも新人らしい若い兵士と同行してるけど。


「よしなに頼むぞえ」


 と肩越しに手をヒラヒラさせて、の中の階段を登りきった彼は、引き戸を開けて城壁の上に踊り出した。


「おおっ、絶景、絶景じゃの?」


 南の商港へ続く街道は、七月になって青々として来た山に消えていく。朝靄もすっかり晴れて、そこを見通せる場所に陣取ると迷惑顔の七郎さんに話しかけた。


「クロウさま、敵がまじかに迫っておるときに、こんなところに出てきて矢……いや銃撃でしたかな? それにやられたらどうされます?

 どこぞに敵は潜んでいるやも知れませんのぞ? だいたい若はですな――む?」


 ブィィィィィンッと空を震わす音がする。

 見ると山の上の空に、針で開けた穴ほどの黒点のようなものが、ドンドン近づいてきた。


飛行籠トンボじゃ……トンボじゃ、敵襲じゃあっ」


 クロウさんが櫓へ向かって、警鐘を鳴らせと声を張り上げた。

 それが侵略の始まりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る