第六十七話 中隊の逆襲

「おのれ、“ラの国”をなめたらどうなるか、刻み込んでやる」


 とギリリと奥歯を食いしばったとき。

 ヒョウヒョウ、と雨のように矢が降り注いできた。


「な?!」


 慌てて斜線を確かめると、北西から黒い針のような影が。続けざまにカンカンッと鉄兜が矢を弾く音。

 

「ぐっ」

「ぐわっ」


 不幸にもアーマーの隙間に矢が刺さり、悲鳴を上げる兵が逃げ回っている。

 

「木の陰に隠れろっ」


 とりあえずの指示を出しながら、上空から降り注ぐ矢を避けて木の陰に走り込んだ。

 しばらく弓矢の軌道を測り、およそのあたりをつけると


「北西からだっ、その場からでヨシッ。北西の崖の上へ撃てっ」

 と命令を発した。


 途端にパンパンッと響き渡る破裂音。

 崖上を見上げると着弾の土埃が舞い上がる。矢の雨がおさまったところを見ると、崖の上では移動をしながらこちらを覗っているようだ。


「第二小隊はまだかっ?」


 伝令に呼びかけると、三十名ほどの小隊を引き連れてやってきた。


「あちら(前方を指差しながら)でも敵襲がありました。遅れて申し訳ございません」

 膝をついてと首を垂れる。


「かまわん、非常事態だ。本部に上空援護エアサポートを要請した。

 これより第三隊で崖に登り拠点をつくる。

 第二小隊は第三隊が崖上に到着するまで、的を絞らせるな」

 

 と指示をしている間にも、ヒョウと矢が飛んでくる。


「むぅ、グズグズするな。敵に当たらなくてもかまわん、散開してあの(岩が飛び出ているあたり)ルートから敵の目をそらせ」


「了解ッ」


 と敬礼すると、第二小隊が小隊長の指差しで指示をだす散開の位置へ散っていく。


「矢が来る方を見定めよ。無駄だだまを撃つなよ」


 残りの弾薬をたずねるのを忘れていた。

 やはり機械的に確認できずにいるのは、経験の浅さなのだろう。

 中隊長が軽く自嘲の笑いを浮かべたとき、第三隊がそろそろと岩場のルートを登り始めた。


――――その時、崖の上では。


 ワルレー軍卿に割いてもらった二十人を引き連れて、クロウさんがご機嫌だったりする。


「良いっ、良いのぉ。敵は大混乱じゃ」


 短弓を引き絞っては上空へヒョウと放つ。

 上空で山なりの軌道をえがいた矢は、加速して崖下へ落ちていく。


 同じく矢を放っていた二十名の一人が困惑気味に

「もうそろそろ矢が尽きます。そろそろ打って出た方が良いのでは?」


 と尋ねてくる。


「打って出ては討ち取られるであろ? しばらくこのままで良いのじゃ」


 と言っては短弓を放つ。


「はぁ……」


 なんとなく腑に落ちない顔をしながら、矢を放っているとパンパンッと破裂音が響き、崖の淵から土埃が舞い上がった。


 次々と続く破裂音と舞い上がる土埃。


「ほっほぅ――っ、もっと撃って参れ。当たらぬがの」

 とさらにご機嫌になる。


「そこからしばらく打ち下ろしてたも」

 と、兵士の一人を捕まえて位置を示す。


 言われた通りに山なりに打ち下ろし始めると、

 

「さてぼちぼち登ってくるはずだがの? 波動、『隠遁』」


 たちまち周りから気配が消えて、風景に溶け込んでいく。

 そろりそろりと崖の淵をのぞきに行った。

 

 案の定、岩場に列をなしてしがみついている。


「そこであったか。射落としてくれる」


 と矢筒に手を伸ばした時だ。

 はるか上空からブィィィィィンと空気を揺らす、不穏な音が近づいてきた。

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