第六十一話 ラの国の侵攻

――それから半日も経たないのに。


「“ラの国”が動き始めました」

 と、嫌な報告が飛び込んできた。


 報告に来た斥候の話はこうだ。


「ヤツらは船から小舟を次々と吐き出して港に上陸しております。その小舟に四、五十人は乗っていました。遠目からでしたので、それくらいかと」


「なんだ、その吐き出したと言う報告は?」

 カトー大佐がその耳慣れない言葉を聞きとがめた。


「はっ! 船の先端が、こう、パックリと開いて小舟が排出されておりました」

 と両手のひらを水平に合わせると、上にした右手を蝶つがいが開くように広げて見せる。


「そのほかにも、そこからこちらへの偵察と思われる飛行籠トンボが三機、発進しております」


 その光景、映画やニュースで見た気がする。


 フェリーみたいな舟で、上陸用のボートを吐き出して、歩兵とか戦車を上陸させるやつ。

 箱形で妙にカッコよかったから、調べた記憶がある。物資や人員を素早く陸揚げすることから揚陸艦ようりくかんと言うらしい。

 つまりあっという間に上陸し、拠点を築くことができる。


「もう港を拠点とされたか」


 ワルレー軍卿が渋い顔をしている。

 そこから次々と物資を運び込み、準備が整い次第押し寄せてくる――誰もがそんな想像をした。

 想定よりだいぶ早い。


飛行籠トンボの偵察が終わり次第、陸路と水路の軍立てがありましょうな。そして明日の早朝には」

 進軍が始まる。

 一同の緊張が伝わるように空気がピンと張り詰めた。


 ワルレー軍卿が近衛の一人に顔を向ける。

 

「オトワニ様は?」

 

「まだ……何も」と口をつぐんだ。


「そうか。それまでは我らが体を張って、食い止めねばならんな」


 ワルレー軍卿が細い顔に、一本の横線を引いたように口元を引き締めた。


――――そして翌朝。


 カトー大佐の見立て通り、シャルル港へ上陸した“ラの国”は軍を水路と陸路の二手に分けて進軍を開始した。


 水路へは上陸の時に見かけたカッターボートに、兵器と兵士を乗せて遡上してくる。その護衛に飛行籠トンボを上空へ旋回させている。

 何か動きがあり次第、上空から襲いかかる手筈のようだ。


 どちらかといえば、こちらは王都近くに、兵站をそろえる拠点を築くつもりらしく、五百名に満たない。

 

 やはり主力は山越えで侵入してくるつもりらしい。

 山の尾根に広がる“段”と言われる平地に第一防衛線はある。

 そこへ軽く二千名はいるのではなかろうか?

 一糸乱れぬ縦列を組み向かっていくそのさまは、どれほど訓練されているのか? と呆れるくらい統率されていた。

 

 上空からは飛行籠トンボの護衛。

 編隊を組んで空を舞う姿は、不規則に飛び回るトンボと違い、綺麗なVの字を描きながら王都へ迫っていく。


 こちらはクロウさん七郎さん、太郎さんそれとワルレー軍卿とカトー大佐、そして近衛兵が二人。

 それが王都からシャルル港までを遠望できる“遠見の社”に集結していた。


「ぬぅ……カッコ良いの」

 思わずこぼれたクロウさんの独り言に、カトー大佐がぎろりと睨む。


「な、なぁんて……で、ござろう?」


 慌てて七郎(弁慶)さんが、その口を両手で塞いで愛想笑いを浮かべてる。


 太郎さんも流石に苦笑いだ。


 

 

 上空からは先ほど見たV字形の編成を組んだ飛行籠トンボが、その“段”に設えた防衛線を破壊するために、高度を下げると何かを投下した。


 黒い豆粒のように見えるソレ。

“段”に設えた防塁にドォォォンッとオレンジ色の火柱が上がった。

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