第六十話 上陸防衛線

「ああ、嫌味はここまでにしてやる。第二段階次のフェーズへ移行だ」


 ついて来い、とワルレー軍卿は踵を返して兵部へ向かった。


――――ワルレー軍卿の執務室に入ると。


 そこにはカトー大佐と近衛兵が二人。

 こちらからは太郎さんと七郎(弁慶)さん、そしてクロウさんが、会議机いっぱいの立体地図に見入っていた。


 あ、立体地図って、教材に出てくる山とかが立体的になってるヤツね。

 それぞれの高低差が、実際の縮尺に合わせて再現されているからわかりやすい。


 あとから聞いた話だと“アの国”は農業国で、治水に昔から力を入れていたから測量の技術が発達してるんだそうだ。

 それでこんなに精密な立体地図も作れるってわけ。


「おそらく敵は飛行籠トンボを使って我らの防衛線を破壊しにくるだろう。その防衛線だが――」


 王都エテルネルまでの侵入路は二つある。

 水路と陸路だ。


 王都を手前に見た時、西側(左手ね)にシリル川が流れている。これは左がわへカーブしていきもう一度緩やかにくの字へ曲がり、今回焼き払われたシャルル港へ注ぎ込んでいる。これが水路ね。


 もう一つの陸路は。

 王都からまっすぐ街道が伸びていて、それは二つの山にさえぎられる。その山をくねくねと道は続き、これもシャルル港へたどり着く。


「この水路は道がせまく大軍の進軍には不向きだ。よって川船で遡上そじょうしてくる。そこで上流から機雷を流す。川ぞいの道は封鎖し防塁ぼうるいを築いた」

 と舟の模型をおく。


「陸路の方だが」


 と王都から伸びる街道をさえぎる二つの山に駒をおく。


「すでに配置は終わっているが、大軍を進めるならここだ。ここを飛行籠トンボどもが襲ってくるだろう」


 そこでだ――と傍らに置いたバックから包みを取り出し、布に包まれたソレを取り出して見せる。


炮烙火矢ほうらくひやで、良かったか?」

 とオレを見る。


 これは戦国時代の兵器に興味が湧いて兵器を調べていた時に見つけたもので、大筒にロケット状の陶器に火薬を詰めて発射、さらに黒色火薬の火力を推進力として利用した原始的なロケット弾だ。

 

 先端のロケットに導火線をつけ発射していたらしい。

 ソレを知ったときには現代のライフルグレネードのようで興奮した。


 実際に戦国時代にはあったものだが、焼夷弾みたいなもんだから敵が焼けてしまうために首級を上げたい武将たちに嫌われて、あんまり活躍しなかった兵器だ。


 ソレでもすでに戦国時代にあったなんて、すごくない?


「ソレ、よく間に合ったの?」


 クロウさんもビックリしてる。


「ああ、これに近いものなら飛行籠トンボの対策で作らせていたからな」


 こともなげにワルレー軍卿は言うと、これ爪楊枝これ炮烙火矢とすると――と、爪楊枝を取り出してみせ、山の山頂あたりに配置する。


 山道へ二つの将棋のコマみたいなものを置くと、

「ここに二重の防衛線を張っている。そこでこの炮烙火矢だ。試験の結果、約二キロは飛ぶ」

 ソレを持ってまず飛行籠を追い出す――と、爪楊枝を山の山頂から抜いてバツ印を作って置く。


「だが……命中は無理だろう。とてもあの素早い飛行籠トンボに当てるなど不可能だ」


 ゆえに、威嚇にしかならぬ――と渋い顔だ。


 だが、空から来るものへ警戒させることは大きい。

 防衛線を飛び越して、そのまま王都へ爆撃することも考えられるからだ。

 防衛線を潰してから王都へ向かうはずだ、たぶん……ともかく時間が欲しい。

 乙姫とシズ姫の準備が整うまでの。


――それから半日も経たないのに。


「“ラの国”が動き始めました」

 と、嫌な報告が飛び込んできた。

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