第五十八話 な、なにが起こった?
ドォォォンッ、ドォォォンッという砲撃音が雷鳴のように闇夜を切り裂いた。
「なにごと?」
森の中の西の空が赤く染まっている。
まさか森林火災?
「違うのぉ。あれはたぶん商業港の方じゃ。
あのバカでかい鉄の船から砲撃されておるのであろ。見に行きたいところじゃが、これではままならぬ」
と壊刀を取り出すと、ギリギリと吊り下げるロープを切っていく。最後の一本のあたりで波動を足に流し込み、すたっと飛び降りた。
そのまま一番高い木を探し、するするとよじ登っていく。
どうやらオレたちは山の尾根のあたりにいるらしく、その尾根の向こう側が燃えているようだ。
「ぬぅ、あの港の東がわとは思うのじゃが、これ以上夜の下山は危険じゃ。ここで夜を明かす」
と太い下枝が張り出し、三股に分かれているあたりを選ぶとそこまで降りて、腰を落ち着けた。
「寝落ちの用心もしておくかの」
と袖を上げるために縛っていたタスキをほどくと、帯と幹をクルクルっとゆわえた。
なんにしろここまでじゃの――と幹に背をあずけ、太い枝にまたがって足をブラブラさせている。
「のう蔵人、おるのであろ?」
と話しかけてきた。
「今日は助かったぞえ。ヌシがおらなんだら、あの銃とやらにやられていた」
と暗い夜空を見上げる。
「オレはなにもしてねぇし」
そう――何もしていない。
不本意ながらクロウさんに憑依して、その冒険をリアルタイムで見てるだけだ。
今までだって誰かの作ってくれた世界で不平不満を述べ立てて、生きていただけだ。
「それでも主がいてくれて助かったぞ。面白いことの連続じゃ」
ちぇっ、さっき死ぬ目にあった人がよく言うよ。
「なぜ憑依したかはわからぬが、主とは縁があるのであろ。何やら近しいものを感じるしの」
と言いながら近くの葉っぱを口に含むと
「少しヌシの世界の話をしてたも」
と幹に体をあずけた。
何から話したものだろうか?
しばらく考えたのち、戦争に負けてそれでも頑張って世界でも有数の国になったこと。
鉄でできた道路(線路)に鉄の箱が走り、街を結んであっという間に移動できること。
スマホという板みたいな機械で地図をみたり、いろんな情報を取り出せること。
そこら辺をかいつまんで話してみせた。
「凄いのぉ、日の本の子孫たちはそこまで頑張ったか」
と満足げに笑う。
「のぅ蔵人、主はどうなりたいんじゃ? どう生きたい? そこら辺を性根を入れて考えれば、この度の憑依も無駄にはなるまい?」
そう言われたって――と言葉に詰まる。
それに気づいたのかクロウさんはうーーん、と伸びをして。
「なんにしろ……少し疲れたのぅ」
ふぅ、とため息をつくとスヤスヤと眠り始めた。
――――朝日が目に染みる。
そんなことがあるんだなぁ……と。
寝覚めのボゥとした頭で考えて、ギュルルとなる腹の音で目が覚めた。
ズルリと体が滑り落ちそうになって
「うぇいっ?!」
と完全に覚醒する。
そう言えば墜落して木の上で一夜を明かしたのだった。あたりを見回すと、すっかり明るくなっていて下山しても支障はないようだ。
どこへ行けは良いかわからないんだが……(汗)
ともかく見晴らしの良いところへ出てから考えよう、と山の頂上まで歩き始めた。
獣道のゴツゴツ木の根の張り出した坂道を登っていくと、木々がまばらになり、かわりにゴツゴツとした岩肌になっていく。
やっとの思いで山頂にたどり着くと、眼下に広がる景色に目を疑った。
「なにが……なにが起こった?」
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