第五十一話 それで手打ちとしましょう

 攻撃しなくちゃ迎撃にならんだろ……そんな一同のツッコミたい空気に反して、カトー大佐だけは静かにこちらをねめつけた。


「罠を張る……のか?」


 クロウさんの顔がパッと輝く。


「その通りじゃ、こちらは敵に姿を見せるだけで良い。言わば――「おとりか?」」

 

「それ。それをお願いしたい」

 さすがに我らでは無理だからの、と頭をかいた。


「都民はどうする?」


「さすがカトー殿じゃの。どこぞへ避難させられまいか? その避難のもろもろもお願いしたい」

 と頭を下げて見せる。


「“ラの国”のスパイや監視官に気づかれる。都民まで巻き込むとなれば終いだ。話にならん」

 カトー大佐の鋭い指摘に、むぅと顎の下に梅干しを作るクロウさん。


「だからと言うたであろ? ワシはこの国の者ではない、仔細しさいはそちらで頼めんかの?」


 そこで太郎さん

「宣戦を布告してきたのです。監視官は国外追放、スパイはこの際です、容疑者を全員拘束こうそくしては?」

 と助け舟を出してくれる。


「だとしてもだ。斥候も出さぬバカはおらん」

 とカトー大佐は八の字の眉を皮肉に吊り上げた。


「じゃから罠をはる。その工夫がこれじゃ」

 とふところから図面を取り出した。


「これは?」


 今度ばかりは大いばりで胸をそらす。


「機雷と地雷というモノじゃ。機雷は船に当たれば爆発し、地雷は上から圧力がかかれば爆発する。これを上陸してくるここらにばら撒く」


 ワルレー軍卿が初めて興味を示した。

「ほぅ? これが王家の秘法なのか?」


「う? うむ、そんなようなモノじゃ。じゃが、これはまだない。作ってたも」

 もちろんコレはオレの記憶から引っ張り出したモノだ。モヤッとした知識だけだから作れる保証はない。


 ヌケヌケと吐かすクロウさんに、目を見開くワルレー軍卿。


「言ったであろ? 秘法はあっても方法だけじゃ。こちらには資金も人手もモノもない。じゃから軍の力を頼むのじゃ」


 ワルレー軍卿の顔がゆがむ。

「できぬことはない、以前から火薬を使った兵器の研究はしていた。だが、聞けば我らの持ち出しばかりだ。

 我らへの見返りがなければ、軍の内部ももまとまらん」


「む? これが被害が一番少ないと思うたがの。できなければ“ラの国”と正面衝突じゃ。勝っても被害甚大、負ければ全員生首になるだけ、ちがうかの?」

 と首に手刀を当てスパッと横に引いて見せる。


 ワルレー軍卿がニヤリと口角を上げた。

「作戦が成功した暁には身分の保証をしてもらおう。勝っても生首になるのはごめんだ」

 顔色を見定めるような目が乙姫に注がれる。


「いいでしょう。ですが私も含めて謀叛クーデターの前の身分に戻す、ということで。

 王家が秘伝を受け継いでかねば、いずれにしろハデスは復活する。王家の存続は絶対です」


 乙姫とワルレー軍卿の視線がぶつかり合う。

 ゴクリ、と唾を飲み見守るうちにワルレー軍卿はハハっと笑った。


「いいでしょう。それで手打ちとしましょう」

 そう言ってクロウさんを見る。


「小僧、この作戦は貴様が考えたのか? ポールもおらず、そこのタロウ殿も戦は素人だ。他に協力者がいるのではないか?」


 鋭い目線でほかに黒幕がいるのではないか? と疑り深く睨みつける。


「ぬ? そうしゃがなにか?」

 いけしゃあしゃあと吐かしてワルレー軍卿を見返した。


「末恐ろしい小僧だ。勝利がなった暁には、取り立ててやるゆえ結果を出して見せろ」

 そう言ってこちらへ背を向けた。


――――そして“ラの国”が。

 海と空をおおうようにやってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る