第四十八話 王族の宿業


「で、あらば――ワルレー軍卿と手を結ぶ」


 はぁ?! ――と。


 一同の呆れた声が上がり、クロウさんに非難めいた視線が集まった。


「敵の敵は味方じゃ。利益が重なるものが手を結ぶのは理にかなっておらんかの? ワルレー軍卿も“アの国”を救わんと謀反クーデターをしたんであろ?」


 乙姫の白い肌に朱が刺した。

「彼は大妖ハデスが制御できると思い込んでいる愚か者です。大妖ハデスを利用して世界の覇者となる、とも申しておりました。

 “アの国”を救う、など建前も良いところ」


 クロウさんが目を丸くしてる。


「手を組むには信がおけぬ、と?」


「そうです――彼は妄執に取り憑かれている」


「ならばなぜお二人を害さなかったのかえ? 復活させることに目度がつけば、邪魔になろうて」


「我ら王族が制御の方法を知っている、と思い込んでいたのです。

 復活させてしまえば制御する手段などない――伝承にすがるような賭けに、国を危険にさらそうとしている愚か者です」


 ふぅーむ、と腕組みをしたまま唸るクロウさん。


「伝承にすがる賭け……と? 女王オトワニさま、まだ我らに明かさぬことがありそうだの?」


 うっ、と口元を抑えた乙姫さま。


「つくづく……クロウさまには隠し立てできないようですね」


 袖で覆った口元からふぅとため息がこぼれる。


「良いでしょう。まずはいかに封じてきたか、どのように復活するか? を申しましょう」


 これまで我ら王族は……と、遠くを見つめる。


「大妖ハデスを封じ続けるために、“フェリーチェの儀”を行って来たのです。

 豊作という“希望”と子が健やかに育つよう祈る“愛”を収集し、“外魂の玉”に注ぐために行われてきました」


「その“外魂の玉”を奉じることで、代々大妖ハデスを鎮撫し続けてきた、と?」


「その通りです。つねひごろは負の感情をためこまないよう代物しろもののある神殿に参拝を奨励し“負の感情”を吐き出させ、“正なる感情”へ導いておりました」


 コホッと一つ咳払いを挟んで乙姫が続ける。禁忌に触れることがらが入っていたのだろう。


「“外魂の玉”で命を奪いながらも、破滅を避けるために我ら王族は民を騙し続けてきたようなもの」


 抑えていた罪悪感が吹き出したのだろう。乙姫とシズ姫が頬を涙でぬらす。


「戦になれば負の感情は倍増します。いつか“正なる外魂の玉”でも鎮撫が追いつかなくなる。

 それゆえに、王族は争いにならぬよう治安と外交を務めなければならなかった。

 ですがそれが叶わぬの時、膨れ上がった憎悪は王族に向けられ、これまで人の命をもてあそぶ非道ひどうを繰り返してきた王族が触媒しょくばいとなって、大妖ハデスは復活します」


「なんと……苛烈な――」

 七郎さんが声を発して息を呑む。


「はたから見れば、私かシズ姫のいずれかが大妖ハデスに変化し、光すら同期させ“負の感情”を増幅し、誤認の波動を放ち人々を殺し合わせる」

 

 ……ううんっ、と一拍の間を開けると乙姫は続けた。

 

「ゆえに我ら“アの国”は墓場であり、王族は呪われた一族なのです」


 むぅ、と推し黙る一同。

 なのだがのその中で声を上げるのがクロウさん。


「乙姫さま、質問の答えになっておらんの。ワシはハデスを制御する方法を聞いたつもりじゃがの」


 乙姫はため息をつきながら

「破滅か封じるか、それしか大妖ハデスは制御できない」

 とポツリ、と告げた。


「ならば、全て解決できるわい」

 となぜかクロウさんは笑った。

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