第四十七話 敵の敵は味方

「それは、夢、希望、、勇気、そしてもっとも人が待ち合わせ、代々育んできたもの――」


 それは――と言いかけたとき、クロウさんが膝を打った。


「それは愛じゃろ?」


 それを聞いた乙姫はにっこりと微笑んだ。


「じゃがしかし、困ったのう……外魂の玉”がいるのはわかったが、それを作るとなると人が突然死するのであろ?

 新たにシズ姫に作ってくれとお願いするのものぅ」


 儚げなシズ姫を思い浮かべる。

 

「それは必要ありません」


「「「シズ姫?」」」


 戸口から現れたシズ姫に一同驚いた。


「すみません、クロウさまがお母様に相談すると聞いて、居ても立っても居られなくなって。盗み聞きなんてとてもはしたないですけれど」


 恥かしげにうつむくシズ姫。

 彼女なりの葛藤があったようだ。顔を上げると


「“外魂の玉”のいくつかは持ち出しております」

 と巫女の衣装を持って来させると袖を裂いた。ゴロゴロと転がる乳白色の玉。


「ここにも」と乙姫も告げると袖をさいて、ゴロゴロと転がす。

「もう、これ以上作る必要はありません。正なる波動を注ぐだけ」


「すでに、こうなる――と予想しておられたのかの? オトワニ女王?」


 クロウさんは片眉を吊り上げ、乙姫を見やる。


「いつの日か大妖ハデスを封じ、“ラの国”を退ける手段が見つかるやもしれぬ、と“フェリーチェの儀”の際に仕込ませておりました。

 手段がもしあるのなら、あとは皆の気持ち次第――」

 と、整った顔立ちに少し疲れた笑顔を浮かべた。


「ですが私には、もうどうして良いかわからない。王都はすでにワルレーに抑えられ、その王都すら“ラの国”が侵略してくれば危うい」


 とシズ姫を手招きして肩を抱く。


「私とシズ姫だけではなにもできないのです。いまここにいるみなさんに問いたい。手段があるとして――」


―――――決意はあるか? と。

 

 あるものは親兄弟を思い出し、またあるものは、生まれ育った故郷を思い出し。

 それが“ラの国”に蹂躙じゅうりんされるのは我慢ならない、と思いを吐露とろしていく。


「ありがとう……よく皆の気持ちはわかりました。“アの国”を守りたい――それで良いのですね?」


 一同がうなずくとクロウさんへ向き直った。


「それではお聞きしましょう、クロウさま。あなたは先ほど『やれることはある』とおっしゃいましたね?

 それはいかにするおつもりです?」


 今度はクロウさんのターンだ。

 得意げにそこにいる一同を見回すと胸を張る。


「確認しておきたいのだがの? 近々侵略してくる“ラの国”から“アの国”を守るってことで良いのであろ?」


 一人一人に視線を移していくと、それぞれの思いを胸に希望に満ちた目でこちらを見返して頷く。


「で、あらば――ワルレー軍卿と手を結ぶ」


 はぁ?! ――と一同は呆れたような目を向けた。

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