第四十五話 あの夢のあと
「ポール、ポール・メリカルっ。見事であった――」
と、乙姫はまさに女王然として宣言した。
――――その日の夜。
乙姫さまがみんなを集めて
「皆さん、これまで
「三日後にはいよいよ亡命のため出航します。
ポールを
すこし憂いを漂わせるが、すぐに顔を上げ
「ここまで尽くしてくれた皆に、
「私に思うところもあるでしょう。
今後の身の振り方を考えるところもあるでしょう。今宵のささやかな
それでは――と、リツに目をやるとさまざまなな料理が運ばれてきた。
――――
少し酔いが回ったようだ。
未成年飲酒? いいの、クロウさんは成人してるわけだし。十五才だけど、平安末期はそれで良かったのだ――と意味不明な言いわけを考えながら、席を外した。
昼と
そよそよと吹き寄せる風が草原の香りを運んできて心地よい。
ここ最近の緊張をほぐすように大きく伸びをすると、
シズ姫が
「君が胸に……
しばらくその歌声に聞き入っていると、不意にその歌声が止んだ。
不審に思ったオレは
「シズ……どうした?」
呼びかけられた少女が、ああ……と切げな声を上げた。
ゆっくりと動き始める唇からこぼれ落ちる鈴を転がすような声が、全ての音を消した。
「助けて……」
あれ……? これって……?
「“アの国”はどうなりましょう? リツに“ラの国”が侵略してくると聞きましたゆえに……」
と苦しげに黙り込む。
「戦いに勝てればそれで終わり。負ければ“ラの国”から入植者が、我が物顔で“アの国だったもの”を
こういう事に疎いオレが黙り込む前に、クロウさんが答えてくれる。
わからないのです……とシズ姫は
「このまま逃げて良いのだろうか、と。王族なのに逃げてポールさまと同じように、たくさんの犠牲者が出るのではないかと思うと」
胸が押しつぶされそうになって……と黙り込む。
「だから助けて欲しいのかの」
コクンと頷く彼女をしばらく見つめていたクロウさん。
「ずいぶん身勝手じゃの」
と告げるクロウさんの目は、セリフとは真逆の優しげで、それに勇気をもらったのかシズ姫は告げる。
「はい……だから苦しいのです」
「王族としての務めを放り出して逃げるのが、我が身が安全となった途端、自責の念にかられるか?」
「ですがポールさまは亡命先で勢力を取り戻し、ワルレーを退けて“ラの国”を撃退するつもりであった……とも聞いたのです」
十五の少女が背負うにはあまりにリアルな現実。
今になって初めて王族の務めとは何か、を思い至ったようだ。
「何のためにポール殿は死んだか? と思えば板挟みじゃ、苦しくもなろうの」
と考え込むクロウさん。
「ちと乙姫と話さねばならぬの。深刻に考えずともこういう時は大人に任せれば良いぞえ、シズ姫」
それも知恵であるからの、とクロウさんは優しく微笑んだ。
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