第四十三話 シズ姫の恋
最後に
翼は風をつかんでグンと満天の星空へ押し上げて行った。
――――その時のシズ姫サイド。
火柱が上がった時。凄くビックリしたけれど“ああやっと逃げ出せる”と思った。
舞台に押し寄せて来たのが、私たちを救出するために偽装した一団とわかった時、それは確信に変わった。
その一団の中にいたパパが「シズ姫、後ほど合流しましょうぞ」と一瞬ニコリと笑って、お母様を誘導して行ったとき。
ちょっぴりクロウさまもいるんじゃないか? と探したけれど。
逃げて、逃げて、転んでしまって。
護衛は二人いてくれたけど、あちこちから地面が揺れるほどの追っ手の足音と
「いたぞっ、逃すな」
と
「
と、あの怖い怖いカトー大佐の声が響いて、近衛隊の人たちが
ああ……私はこのまま捕まってしまうんだわ、と思ってヘナヘナとその場に腰を下ろしてしまいそうになった時。
「シズ姫ぇぇ――」
と天から声が降ってくる。
この声は? あの日以来ずっと繰り返し聞いていた男の人の声。
クロウさまだわ、そう思って天を見上げると突風が吹いた。
薄く見上げるとクロウさまが落ちてくる。
危ない、このままではあの人が
私が
でも私に当たる瞬間、また突風が吹いて彼の腕の中に抱き止められる。
「しっかと
そう告げられると見る見る宙へ引き上げられていく。
下からは「気球を矢で狙えっ、死なねば良い。確保せよ」
とか、とても恐ろしい言葉が飛び交うけれど。
そんなことお構いなしにクロウさまの声は響く。
「波動、
下から吹き上げる突風にのり、スルスルと引き上げられた先は大きめな馬の鞍のような座面だった。
手早く私に前を向かせると、自分の体ごとベルトを締めていくクロウさま。
背中に男の人の体温が伝わってくる。
「点火、波動……熱波」
と唱える振動すら伝わって。
熱風が吹き上げて炎がたちのぼり、一瞬あたりが明るくなる。すでに屋根ははるか下に見えて、グングン高度が上がっていくのがわかる。
助かったんだ、と思ったら気が緩んだのか涙が出てくる。
「もう大丈夫だぞ、安心してたも」
という優しい彼の声。
怖かった……という気持ちと、後ろから首筋にかかる優しい息づかいに、バクバクと心臓が鳴り止まない。
「た、助けていただいて、ありがとうございます。あなたの勇気に感謝を――」
もう胸がいっぱいになって苦しくなる。
そんな私を察してくれたのか、
「姫、空をごろうじろ。星がいっぱいだの」
と指差す先に降るような星空が広がっていた。
「もう心配はいらぬぞえ。気持ちを軽うして、しばらく星でも
とカラカラ笑うクロウさま。
その時、はっきりわかった気がしたのです。
あ、私はこの人が好きだ。この声も、この優しさも。
王族である以上、身勝手な恋など許されないのはわかっているけど――今だけ、この瞬間だけです、お母様……。
「ほんとうに、綺麗……」
そう言ってポフッと背をあずけた。
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