第四十一話 上空からクロウさん

「ぬははっ、肝をつぶすが良い」

 クロウさんの悪戯心いたずらごころがむくむくと湧き上がり、ニヤリと笑った。


 まず袈裟懸けさがけにしている風呂敷包ふろしきずつみをほどく。

 そこには板バネ三枚短弓セットが包まれていた。それを手早く組み立てると肩にからげ、腰にゆわえてある風呂敷包ふろしきずつみを取り出す。


 中から出てきたのは俸禄玉ほうろくだま

 一つ一つを湿気らないように油紙で包んである。リタさんの丁寧な仕事だ。

 それを額に掲げて、指先に波動を流し込んでいく。


「波動……着火」


 指先に俸禄玉ほうろくだまの導火線を近づけると、ホワッと炎が立ち上って火花が散りチリチリと辿っていく。


「そりゃ!」


 密度の高そうな一団にそれを投げ込むとドォォンッと火柱が上がった。


「うわッ」

「何事?!」

「敵襲――ッ」


 と慌てふためいた声があがる。


「ぬぁっは、ハッハ――ッ、気持ち良いの?! ではもう一発」


 同じ要領で導火線に火をつける。

 ドォォォンッと立ち上がる火柱に会場はパニック状態だ。


「おおっ、逃げ惑うておるっ。人がゴミみたいだわっ」

 と、人でなしのクロウさん。


「これが最後のもう一発」


 と投げ込む俸禄玉ほうろくだまに各地の貴族たちの護衛騎士たちが、会場へ乱入し始めた。


「*$%#€様ぁぁぁ――っ」

「*+$€様はいずこ?!」


 それぞれの騎士団が、それぞれの主人を探して大声を張り上げている。


「ほっほう! わめけ、騒げっ、良いおとりじゃ」


 思いのほか順調に混乱してくれて喜悦の色を浮かべた。


 最後の一つを放り込むと、会場は阿鼻叫喚あびきょうかんの地獄と化していた。


「さて、追い討ちといこうかの」


 と肩にからげた短弓を取り出し、背中のランドセルに結えてある矢筒から二本まとめて、矢を取り出した。

 一本を口にくわえ、一本を弦にセットするとキリキリと引き絞る。


「うるゎ!」


 短弓の射程は十四、五メートルと言われているが、百メートルほどの上空から撃ち下ろすとなると、話は別だ。

 ヒョウと放たれた矢は、眼下のなんたらだかの貴族に突き刺さった。


 口からもう一本引き出すとキリリと引き絞る。


「うりゃ!」


 同じ要領で次々と放っていく。


「ぐわっ!」

「矢が?! 矢が飛んでくるぞ」


 どけっ! ¥&#%様ぁぁぁ――っ」

「&^*でございますっ、$€£様、いずこでございますかぁぁぁ――っ」

 

 舞台にいた巫女とその後ろに控える侍女たちの悲鳴が響き渡り、「ええいっ、何をしておる?! 篝火かがりびを消せっ、的になるぞ」とどこかの騎士がてんでバラバラに指示している。


「上からの襲撃だっ、投光して矢のくる方を照らせっ。

 弓隊をそろえ投光の支度したくができるまで、カンでかまわんっ、矢のくる方へ撃ち返せっ」

 なんて嫌なこと言うの?! ――的な声が聞こえる。

 この声はワルレー軍卿だな。


 そちらにも一矢、おりゃ! あ、ハズレた。

 

 とやってる間にヒョウ、ヒョウと矢が打ち返されてきた。盲打ちだし上へ向かって放つ矢だからかなり見当違いなところへ飛んでるけど。

 投光器で照らされて的にされたらかなわない。


 その時、ゾゾッとするような波動を感じた。

 外朝から王宮へ向かう道のあたり――「波動、夜眼やがん

と目の奥に波動を流し込んでいく。


「ぬぅ……? アレはポール殿、と……出たっ、カトー・タイゼン」


 二人が火花を散らして斬り合っている。


 その奥を見ると巫女みこ姿をした少女を取り囲むように、王族のびょう(王家のまつられているところ)に向かって走る一団が見える。


 だが、その一団を取り囲むように走る別の一団がある。まだ気づいていないようだ。


 なんとかせねば。

 クロウさんはびょうの近くにある御神木ごしんぼくに目をつけた。

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