第三十八話 決行は光の川とともに
切ない想いを抱えた十五歳の少女は、イソイソと
“
光を放ち父の浦島太郎が浮かび上がった。笑うと目尻に
まだ会ったことはないけれど。
「シズ姫、父と呼ばれる資格はないが、あなたのことを想い
小さいころから母である乙姫に繰り返し見せてもらった“言伝の玉”には、もう少し若かった頃の映像が多かったが、シズはどちからかというと今の方が好きだ。
「パパ……」
また涙がこぼれ落ちそうになってくる。
母にはいつも『王族たるもの強くあれ、民を
『シズ姫、笑うてたも』
次に
なんでこの人はわざわざ変な顔をさらすのだろう?
『笑って笑って――心が軽くなろ?
いや、なった、間違いなく心が軽くなって姫は安らかになった。待っておれ、必ず助けてやるからの。
安心して……ただ待っておれ」
優しさが音となって包んでくれる。
あぁ……と何度目かのため息をつくと、あの日彼が告げた名前を
「クロウ……クロウ・ホーガン様」
急に顔が熱くなり両手で頬を押さえ込む。
男の人の名前をつぶやいて赤面するなんて。ああ、なんてはしたない、恥ずかしい……。
しまいには両掌で顔を覆い隠し、トクントクンと高鳴る心音を鎮めるために大きく息を吸った。
――――ついにフェリーチェの儀の日。
昼間までの祭りの
「この子たちが健やかに育ちますように。豊作になりますように――」
それぞれがそれぞれの祈りを込めて、
その目線の先の竜宮城でも“フェリーチェの儀”は
広場の前の
広場のあちこちで
その二人の、歌うような祝詞に合わせてシズシズと進み出た巫女たちが、手にした鈴をかき鳴らす。
例年ならこの広場に抽選で選ばれた一般参賀の民が集まり、一斉に祈りを捧げる。
今回は“ラの国”の皇女と査察団を貴賓席に迎え、広場には有力貴族が手に
「なかなか幻想的だな」
ニジャール・ラ・フンデルは席に腰掛け、隣のオットー・トラウトマンに話しかけた。
「閣下……実にこの国は美しい。願わくば――」
「ああ、この全てが手に入るならば皇帝陛下もお喜びになるだろう」
「閣下……」
オットーが
と、同時にドォォォンッと祝砲が撃ち放たれる。
一斉に空へ放たれる
オレンジの光を放ちながら、王都エテルネル全域からそれが放たれた。
それは風に流されて光の帯となり、さながら天の川が舞い降りてきたようで。
査察団の一団もこの時ばかりは言葉を失い
ドォォォンッと火柱が立ち上がった。
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