第三十五話 大妖ハデスは?


「なにも……と言いたいところですが、“ラの国”に抗する知恵をクロウさまから頂きたいと」


「女は怖いの?!」

 と答えようとしたクロウさんのくちびるはリタさんのくちびるふさががれた。


――――その翌朝。


 気がつけばリタさんの姿は見えずボーとしているクロウさんとオレ。


「夢であったかの?」

「そういうことにしとかないとR18指定になっちゃうかもよ」

「時に蔵人よ、昨日のあの考えはヌシかの?」

「さぁ? オレもいろんな本で読んだことを整理しただけだし」


 あの後、寝物語にいろんな話をした。

 オレは知恵を貸すつもりでリタさんの質問に答えていっただけだけど――あ、もうやめよ。

 思い出すだけで顔が赤くなる。


「さて、飯でも喰らって修行の続きを――せねばならんかのぉ」


 するりとベットから抜け出た。


――――フェリーチェの儀の朝。


 ポールさんをはじめ何度目かの確認作業が終わり、いよいよ今夜、救出劇が決行される。


「受け持ちは空からの気球にはクロウ殿、突入し乙姫さまを救出するのがタロウ殿、シズ姫は私ポールが。異存ございませんな?」

 ちなみに脱出して川船までの護衛はショーミさんが率いる班になる。


 気球で陽動する担当を買って出たのはクロウさん。

「危険です。矢の的となりましょう、トンボに追われて落とされるかも知れません」

 と七郎さんもポールさんも必死に止めたんだけど、


「なに、体重がもっとも軽く目端がきいて身軽となれば、ワシしかおるまい。上から行くのじゃ、五十五間100メートルも離れれば、矢は当たらぬしトンボは夜飛ばぬであろうよ、着陸が極端に難しくなるからの」


 矢の射程距離はポールさんたちから聞いた距離で、夜間着陸が難しくなるから――これはオレの記憶にあるマンガの知識だ。

 大丈夫なのかよ――。


「それにあの凧風船(熱気球と凧を組み合わせたあの飛行具)を一番うまく操れるのはワシだからの」

 と胸を張る。


 実際試運転をしてあっという間に習熟してしまったのはクロウさんだ。

 もともと高いところから飛び降りたり、体操選手みたいにバク転したりと散々やっていたらしく、空中でバランスを取るのは得意だったから、あとは機械の操作を覚えるだけだった。


「七郎、凧風船たこふうせんをワイヤーで竜宮城の近くまでけん引するのは任せるぞえ。凧風船の安全は君にかかっている、ぞえ」

 スパイものの記憶と冒険モノの何かの記憶が混ざって変な言葉遣いになってる。

 クロウさんの厨二病ちゅうにびょうが発症したようだ。


――――同じ頃。竜宮城の会議室では。

 ここから第三者目線になります。


「おおよそ“アの国”の軍容はわかった。“ラの国”に敵対できるはずもない――と、いうこともな」

 冷たい女の声が聞こえる。


「お分かりいただけましたか? ニジャール・ラ・フンデル閣下」

 緊張した面持ちで顔色をうかがうのはワルレー軍卿。すでに何度もシュミレーションした応答を頭の中で何度も繰り返している。


「だが、気がかりな点がある。人と物と金の流れが合わんのだ」

 と押しやられた資料にはいくつか付箋ふせんが挟まれていた。


「突然死が多すぎる、ここ数ヶ月で二万人もの人民が死んでおる。そうなれば物の流れは滞るものだ。消費が減るワケだからな。ところが物の流入は逆に増えておる。金も然りだ、不自然極まりない――なにを隠している?」


 しばらく沈黙してワルレー軍卿が口を開こうとしたその時、

「大妖ハデスは復活するのか?」

 ニジャールが鋭く告げた。

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