第三十四話 秘め事


「ついに完成しました」


 そこには凧と気球を組み合わせた奇妙なモノが映っていた。


「これを使い陽動します。その隙に乙姫とシズ姫さまの救出を。その詳細ですが……」


“フェリーチェの儀”の最後には、乙姫が神々への祈りを乗せた紙灯籠かみどうろうを空へ放ち祝砲が鳴り響く。

 それに合わせて国民が一斉に紙灯籠かみどうろうを空に放ち、豊作と子どもたちの健やかな成長を祈り鐘の音が響き渡る。


 その紙灯籠かみどうろうが竜宮城から放たれるのは今回、乙姫のモノだけだ。つまり飛行に障害になるモノはない。

 街から放たれる紙灯籠かみどうろうが風に流されて竜宮城へ向かったとしても不思議はないハズだ。


「そこで城外でこの気球を放ち、ワイヤーで誘導します。その後、気球から俸禄玉ほうろくだま(爆裂弾)を投げ放ち混乱を生じさせます――」


 そのすきに乙姫とシズ姫を奪還する作戦だ。

 脱出の経路は以前潜入した時に下見した王族のびょうまつられているところ)の中にある地下道。

 王族とそれを守る近衛兵の、しかもその一部の者しかその存在を知らされていない。


「ゆえに、ワルレー軍卿の編成した近衛兵は知らないはずです。場内を警備する警備兵にふんしてこの脱出路から侵入し、混乱に乗じて乙姫とシズ姫を奪還します」


 脱出した後の話だが、王都“エテルネル”を離れ二キロ先にあるシリル川から川船を使い、沖合に停泊している外洋船まで逃げる。


 そこから先は友好国に亡命の拠点を作ってあるそうだ。そこまでがオレたちの太郎さんからけた仕事になる。


「ふぅん、そのあとの“アの国”はどうなるんじゃろうの?」

 クロウさんの一言にポールさんと、リタさん、ショーミさんも押し黙った。


「ご心配無用――と言いたいところですが、これ以上は我らには力が及びません」


 おそらくは――とポールさん。


「“ラの国”へ対抗できる“大妖ハデス”も復活せず、“ラの国”の侵略を食い止めるのが精一杯でしょう」

 と言いつつも、友好国に亡命したのちに政権を奪還する計画もあると言う。


「なにより肝心なのは乙姫とシズ姫の奪還です。そのために我らは準備して来た」


 と告げるポールさんを見ながらクロウさん。

「すまぬ、余計なことを申した。七郎、報酬の受け渡しを今のうちに話しておけ。始まってしまえばそれどころではなくなるであろ?」

 と冷めた感じで七郎(弁慶)さんをみる。


 何か言いたげに口をモゴモゴさせていた七郎さんだが

「前金で半分、成功した暁には残り半分を藤原業平ふじわらのなりひらさまあてに送れますかな?」

 と実務者協議に入ったようだ。


 なにやら不満気なリタさんを見て

「リタ、腹が減ったぞ。軽いモノでも良い、なにかたまわらんかの?」

 といつもの無邪気な笑顔でそのそでを引いた。


――――その日の夜。


「男子の寝所にひそんでくるなどとは、覚悟あってのことだろうの?」

 とベットに横たわりながら閉じていたまぶたを開ける。


 微かな匂いで眠気も覚めて、ゴロリと気配の先に目を向けたクロウさん。


「リタ殿、ワシは腹にイチモツハニートラップ|を抱えた女性にょしょうを抱けるほど大人ではないぞ?」


 と見やる先には、スルスルと寝間着キャミソールを脱ぐリタさんがいた。

 フワッと甘い香の匂いがする。


 そのまま有無を言わせぬなめらかさでベットへ潜入して来た。


「なにが狙いじゃ?」


「なにも……と言いたいところですが、“ラの国”に抗する知恵をクロウさまから頂きたいと」


「その報酬が御身おんみであると?」


無粋ぶすいなことを――コトの果てに本音が見えることもありましょう」


「女は怖いの?!」

 と答えようとしたクロウさんのくちびるはリタさんのくちびるふさががれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る