第三十三話 第三皇女、ニジャール・ラ・フンデル

 赤い鋼鉄の機体が広場に降り立つと、中から降り立ったのは真っ白な全身鎧フルプレートに包まれた人物。

 白銀のかぶとをぬぎさり

「“ラの国”第三皇女、ニジャール・ラ・フンデルである。出迎えご苦労」

 と言い放った。


 校庭ほどもある広場を見渡し外朝がいちょうへ目を止める。

 次にワルレー軍卿へ目を止めると「品のない顔だな」とズケリと言った。


 コレでは喧嘩をふっかけに来たようなもので、さしものワルレー軍卿も戸惑とまどったがそれも一瞬。

「ニジャール皇女さまにおかれましては、実にうるわしく」

 とひざをついて拝礼はいれいする。

 それに続くように、その場にいた全員が膝をつきニジャール皇女に拝礼はいれいした。


「礼儀は心得ていると見える。案内あないいたせ」


 とスタスタと歩きはじめる。

 慌てて一同が立ちあがると「長旅のお疲れをいやしていただきたく――」とワルレー軍卿が腰をかがめながら、先導をはじめた。


 外朝には賓客ひんきゃくを迎えるための特別な門がある。全体的に朱塗しゅぬりされ、黒い縁取ふちどりをほどこされた扉に金色の取手。

 それを待ち構えていた近衛兵が、腰をかがめながら左右に開いてピンと直立し最後にひざをついて拝礼はいれいする。どれも相当訓練されている動作をうかがわせた。


 そんなことをお構いなしに進んでいく皇女に、ワルレー軍卿がやや小走りになりながら貴賓室きひんしつへ案内していく。


「さ、こちらへ。必要ならこの奥にお着替えの間もございます。侍女を二人つけますゆえに、なんなりとお申し付けください」

 と中で深く腰をかがめて待機していた侍女を指し示す。


 ふぅん、とつまらない生返事で返した皇女が

「ご苦労、オットーはおるか?」

 とワルレー軍卿の背後を見やる。


「これに」と進み出る彼に、

「着替えを済ませたらすぐに報告を受ける。“大妖たいようハデス”の報告もな」

 と言うとワルレー軍卿にチラリと視線を送り少し口角をあげて見せた。


「今回、私は偉大なる“ラの国”の目として来た。つまらぬことを考えぬことだ」


 と告げると用は済んだとばかりにきびすを返した。


――――ワルレー軍卿の執務室で。


「なぜハデスのことを……」

 とワルレー軍卿がうめいた。そばにはカトー大佐と軍の将校が二人、執務室の中央に据えられた重厚な会議机に腰掛けている。


「軍の最高機密だぞ? それがもれているとなれば、どこまで漏れている? カトー大佐、考えはないか?」


「ブラフでしょうな。我らが“ラの国”に対抗するなら、と考えた時に“大妖ハデス”はその筆頭に想定するでしょう。

 相手にしないことです。

 あくまで恭順きょうじゅんするが、クーデターは国内の問題だったと印象付けるのが得策かと」


「いささか楽観的すぎないですかな」

 と隣の将校が疑問をていする。

「証拠を欲しがるでしょう――“大妖たいようハデス”を疑うならハデス鎮撫ちんぶの大社を探らせては?

 あそこには代物しろものがあるだけで、ハデスの魂魄こんぱくは地下。なにもつかめないでしょう。

 その上で我らは“ラの国”へひたすら恭順きょうじゅんして見せる」


「そうか……ついでに古文書まで開示してやるか。どこまでたどり着くかわからぬが、解読するのに時間がかかろう。その間に我らは大妖たいようハデスを復活させることができる」


 互いに顔を見合わせて頷くと「では、その手配を」と行政を担う内廷へ向かった。


――そんなことがあったとは知らず。


 クロウさんとポールさんを含めた面々が“言伝ことづての玉”に見入っている。


「ついに完成しました」


 そこには凧と気球を組み合わせた奇妙なモノが映っていた。

「これを使い陽動します。その隙に乙姫とシズ姫さまの救出を。その詳細ですが……」

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